手術でも8割の患者にしびれは残る!知っておきたい脊柱管狭窄症の手術の真実

長野寿光会上山田病院/財団大西会千曲中央病院整形外科医師
吉松俊一

重度の脊柱管狭窄症は手術が検討されるが完治するわけではないと理解することが重要

 腰部脊柱管狭窄症(以下、脊柱管狭窄症と略す)による坐骨神経痛や間欠性跛行の症状は自律神経の障害を伴うことがあり、季節によって波があります。最も悪くなるのは血流が悪化しやすい冬の寒い季節、次に真夏の暑い季節といわれています。暑い季節に症状が悪くなるのは、発汗による脱水症状や冷房による冷えの影響で血流が悪化するためと考えられます。

 脊柱管狭窄症は、ほとんどの場合、問診と身体所見で診断がつきます。具体的には「間欠性跛行の有無」「痛くなるまでに歩ける距離や時間」「上体を反らすと症状が悪化するかどうか」「症状の出方や出ている部位」「筋力低下や知覚障害の有無」など、脊柱管狭窄症の主な症状を確認します。

 脊柱管狭窄症の治療法には、大きく分けて保存療法と手術療法があります。安静時の耐えがたい痛みやしびれ、重度の感覚障害や運動マヒ、排尿・排便障害などの症状がある場合は手術を検討することもあります。しかし、多くのケースでは保存療法から始めるのが一般的です。

 保存療法には、薬物療法、理学療法、運動療法、神経ブロック療法などがあります。症状が比較的軽い患者さんの場合は、薬物療法でうまく症状をコントロールできることが多く、約8割の方が血流改善薬や鎮痛剤を服用することで満足できる状態を維持できます。

 薬物療法を治療の基本として、必要に応じてコルセットを使ったり患部を温めたりする理学療法や、筋力を維持・強化する運動療法をつけ加えます。しかし、脊柱管狭窄症に関しては、薬物療法以外の治療法が有効であることを示す、十分な科学的根拠が得られていないのが実情です。症状が改善しない場合や足腰の痛みやしびれがひどい場合は、患部の神経の近くに局所麻酔薬を注射する神経ブロック療法を行うこともあります。

 ただし、薬物療法以外が無効なわけではありません。特におすすめなのが運動療法です。運動療法は、脊柱管狭窄症の増悪因子の一つである肥満の防止や、寝たきりを招く筋肉減少の予防になります。さらに、腰の筋力を強化すれば、脊柱管への負荷の軽減が期待できます。

 脊柱管狭窄症で膀胱・直腸の機能障害や、重度の筋力低下などが見られる場合は、最終的な治療法として、手術療法が検討されます。手術療法には、狭窄した脊柱管を部分的に取り除く開窓術や、全部取り除く椎弓切除術、チタン製のインプラントで腰椎を補強する脊椎固定術などがあります。

 脊柱管狭窄症の治療は、患者さんの意思が最優先されます。医師からは可能な治療法の選択肢を提示してアドバイスさせていただきますが、選択するのは患者さん自身にほかなりません。「旅行に行きたい」「歩行補助車なしで買い物に行きたい」「しびれを軽減したい」「杖をついて歩ければ十分」など、治療後の具体的な希望を医師に正確に伝え、実現可能な目標を設定して治療に取り組んでいくことが重要です。

 患者さんの中には、手術で症状が少しでも改善できるのであればいいと望む方もいれば、過大な期待を寄せる方もいます。しかし、手術によって100%完治するわけではないことを理解すると、手術以外の治療法を求める方も少なくありません。

 手術療法のメリットは、狭くなった脊柱管を広げることで神経の圧迫を取り除き、根本的な原因の解消が期待できる点です。しかし、デメリットとして、感染症などの合併症に加え、術後に足腰の痛みやしびれが残ることも珍しくなく、再発のおそれもあります。特にひざから足先にかけてのしびれは完治しにくく、長期間にわたって神経が圧迫を受けてきた場合、症状は軽減するものの、手術を受けた患者さんの8割に症状が残るというデータもあります。

 足腰の痛みやしびれが改善しない過去の症例を見てみると、治療に来られる5~15年前に発病したと考えられるケースがあります。脊柱管狭窄症を発症していても本人は気づかず、70歳くらいになって、より進行した状態で初めて自覚することが多いのです。

足腰の痛み・しびれの改善には神経に酸素・栄養を届ける毛細血管の血流促進が重要

腰部脊柱管狭窄症は、治療の具体的な希望を医師に正確に伝え、実現可能な目標を設定して治療に取り組むことが重要

 では、なぜ手術によって根本的な原因が解消したにもかかわらず、足腰の痛みやしびれが残ったり、再発したりしてしまうのでしょうか。私は、その最大のカギを握るのは血流だと考えています。

 血管は、血液を体に行き届かせるための通路となる管で、全身に酸素や栄養、老廃物、水分、体熱などを運んでいます。人間の血管は、心臓から出る血液を送る動脈と、心臓に戻る血液を送る静脈、それぞれの末端(細動脈と細静脈)をつなぐ毛細血管からできています。毛細血管は、太さが5~20㍃㍍(1㍃㍍は1000分の1㍉㍍)ほどの細い血管で、体中の血管の約90%以上を占め、総延長は10万㌔㍍を超えるといわれています。

 脊柱管狭窄症は、脊椎の狭窄部分の血流が時間の経過とともに乏しくなり、神経が酸素や栄養不足に陥ってやせ細ることで発症します。そのため、脊柱管狭窄症の症状を改善するには、足腰の痛みやしびれの原因となっている神経に酸素や栄養を届ける、毛細血管の血流を促進することが非常に重要なのです。