出産後骨粗鬆症・椎体骨折の予防のための妊娠前の骨密度検査の啓蒙

慶應義塾大学

 慶應義塾大学医学部の研究グループは、出産後に発症する椎体骨折(背骨の圧迫骨折)を起こす原因として、代謝性や内分泌学的疾患を伴わない原発性の骨密度低下が予想されることを報告しました。

認知度の低い若年者骨粗鬆症

 高齢者の骨粗鬆症に比べて、若年者の骨粗鬆症、特に出産後、稀に背骨の骨折を起こす人がいることは医師の間でもあまり認知されていません。現在、日本では高齢化とともに少子化が課題となっていますが、妊娠・出産・授乳に伴う母体の骨のケアの必要性については、ほとんど論じられてきませんでした。

出産前の骨密度低下が決定的な原因という研究結果

 今回の調査で、出産後、ごく稀に背骨の骨折(椎体骨折)を起こす例があることが明らかになりました。出産後に椎体骨折を起こした11名の患者について調査を行ったところ、一般に骨粗鬆症の原因となる代謝性疾患や内分泌学的疾患への罹患を認めないにもかかわらず、高齢の骨粗鬆症患者に見られるのと同等の骨密度減少を認めました。この11名は、骨折を起こすまで全て完全母乳で授乳しており、いずれも出産後3ヶ月以内に骨折を起こしていました。

 一方、出産を目的に慶應義塾大学病院婦人科を受診した79名に対し、出産後に脊椎のX線検査および骨密度検査を行ったところ、椎体骨折は0人で、骨折を起こした11名の方に比して骨密度は有意に高いという結果が示されました。79名のうち34名は完全母乳で授乳していましたが、骨折を起こした例とは異なり、これらの例では骨密度の低下は認められませんでした。

 また、骨折を起こさなかった例につき、完全母乳で授乳されている34名とそれ以外(完全ミルクあるいは母乳・ミルク混合)の2群で比較したところ、骨密度に有意差はありませんでした。次に、骨代謝マーカーの測定結果を2群間で比較したところ、骨吸収マーカーについては完全母乳群で有意に高く、骨の代謝サイクルのうち、古い骨を破壊する機能の活性度が完全母乳群で高いことが示されました。

 一方、骨形成マーカーについては両群間で有意差がなく、新しい骨を形成する機能の活性度は同等であることが示され、ミルクを用いた授乳と比較し、完全母乳では骨の形成に対し破壊吸収が優位となりやすい傾向があることが推測されました。これらのことから、出産後の骨折は、授乳に直接的な原因があるのではなく、出産前の骨密度低下が決定的な原因となっていると考えられます。骨折が起こったケースでは、既に骨密度が顕著に低下した状況にあった産婦が授乳を行うことで、骨吸収機能の亢進・骨代謝状態の変化を招き、そこに赤ちゃんを抱きかかえるなどの物理的・身体的な負荷が加わったことで骨折に至ったと推測されました。

妊娠前の骨密度検査が啓蒙される意義

 骨折の発症は、激痛を伴い、療養中の育児が著しく困難になります。今後は、このような授乳中の骨折を防ぎ、健康な骨で育児に専念できるようにするためにも、妊娠前の骨密度検査は啓蒙される意義があります。また、妊娠前の検査で骨密度の低下が判明した場合に、専門医による助言や治療を受け、出産後の骨折を防ぎ、骨密度を強固にする必要な対策を立てるためにも検査は重要であると考えられます。