てんかんの欠神発作が起こる神経回路を発見

理化学研究所

 理化学研究所脳神経科学研究センターの共同研究グループは、、てんかんの「欠神(けっしん)発作」が引き起こされる新たな神経回路を発見しました。本研究成果は、てんかんの発症機構の正しい理解と効果的な治療法の開発につながると期待できます。

欠神発作とは

 てんかんは反復するてんかん性の発作を特徴とし、世界における全人口の1%以上の人が発症する頻度の高い神経疾患です。てんかんにはさまざまな種類があり、その多くに遺伝的背景があるといわれています。

 また、てんかん発作にも多くの種類があり、意識消失を示す「欠神(けっしん)発作」はその一つです。その発作時間は数秒から数十秒程度と短く、見た目は動きを止めてぼんやりとした状態で、本人だけでなく周りの人にも気づかれない場合が多くあります。欠神発作には、比較的軽度なてんかんに見られる「定型欠神発作」や、知的障害を伴う難治性のてんかんなどに見られる、始まりと終わりが明確でない「非定型欠神発作」などが知られています。欠神発作時には、棘徐波(以下「SWD」)と呼ばれる特徴的な脳波が観察されます。

てんかんの発症神経回路の解明を目指す背景

 欠神発作についてこれまで、大脳皮質-視床神経回路が主要かつ唯一の生成部位とされ、大脳基底核など他の脳領域は単にそれを修飾する(大脳基底核は欠神発作発生後に逆に発作を抑制する)ものと考えられてきました。

 また、複数の欠神てんかん動物モデルで大脳皮質の興奮性神経細胞の機能低下も報告されていましたが、それが欠神発作の原因なのか、てんかん発作が原因となって現れる症状に過ぎないのかはよく分かっていませんでした。てんかん、知的障害、自閉スペクトラム症などの患者では、電位依存性ナトリウムチャネルをコードする遺伝子「SCN2A」と、シナプスタンパク質をコードする遺伝子「STXBP1」などの変異が報告されています。  

 本研究グループの山川チームリーダーらはこれまでに、これらの疾患におけるSCN2Aの変異と機能変化を初めて報告するとともに、Scn2aヘテロ欠損マウスにおける記憶学習障害や記憶再生異常、統合失調症様の社会性行動異常、興奮性神経細胞の機能低下による欠神発作を含むてんかん発作、またStxbp1ヘテロ欠損マウスにおいては興奮性神経細胞の機能低下による攻撃性の亢進などを報告してきました。しかし、それら遺伝子の異常がどのようなメカニズム(神経回路)を介して疾患の発症に至っているのかは謎のままでした。そこで本研究では、てんかんの発症神経回路の解明を目指しました。

研究手法と成果

 共同研究グループはまず、Scn2aヘテロ欠損マウスと同様に、Stxbp1ヘテロ欠損マウスでもSWDを伴う欠神発作などのてんかん発作が見られることを確認しました。このSWDは、特に大脳皮質と線条体(大脳基底核の一部)で強く観察されました。さらに、大脳皮質、線条体、視床の機能を薬剤で抑制するとSWDが止まったことから、これらの脳領域が欠神発作の発生に深く関わっていることが分かりました。また逆に、線条体を活性化するとSWDが再現されました。これらマウスの欠神発作は、治療によく用いられる抗てんかん薬のエソスクシミドを用いると効率良く抑制されることも分かりました。さらに興味深いことに、大脳皮質の興奮性神経細胞のみでScn2aもしくはStxbp1をヘテロ欠損させたマウスでは欠神発作が見られたのに対し、抑制性神経細胞のみでヘテロ欠損させたマウスでは発作が見られませんでした。この結果は、欠神発作の原因が、他のてんかんでしばしば報告されている抑制性神経細胞の機能低下ではなく、興奮性神経細胞の機能の低下にあることを示しています。

続いて、
①Stxbp1ヘテロ欠損マウスの線条体では、脳神経細胞を興奮させる神経伝達物質のグルタミン酸の放出は低下しているが、興奮を抑制するGABA(ガンマアミノ酪酸)の放出低下は見られないこと、

②同マウスにおいて、大脳皮質から線条体への興奮性神経伝達を亢進させるとSWDは止まるが、大脳皮質から視床への興奮性神経伝達を亢進させても止まらないこと、

③大脳皮質ー線条体投射神経細胞でStxbp1もしくはScn2aを欠損させるとSWDが見られるが、大脳皮質-視床投射神経細胞で欠損させてもSWDは見られないことを見いだしました。

これらのことから、「大脳皮質から線条体への興奮性神経伝達の低下が、欠神発作を引き起こすこと」が明らかになりました。

さらに、
④Stxbp1ヘテロ欠損マウスの線条体では、中型有棘細胞(MSN)ではなく高頻度発火抑制性神経細胞(FSI細胞)において、興奮性入力の大幅な低下が見られること、

⑤野生型マウスで、薬剤を用いて線条体FSI細胞への興奮性入力を特異的に抑えると、用量依存的に欠神発作、ミオクロニー発作、ジストニア、強直間代発作が生じること、

⑥Stxbp1ヘテロ欠損マウスの線条体FSI細胞の発火を特異的に亢進させるとSWDが止まること、

⑦Stxbp1ヘテロ欠損マウスの線条体FSI細胞で、SWDの発生に一致して発火の一時的低下が見られることを見いだしました。

 これらのことから、「大脳皮質から線条体FSI細胞への興奮性入力の低下が、SWDを引き起こしていること」が明らかになりました。以上の知見と、これまでに欠神てんかん動物モデルで報告された知見を組み合わせ、「大脳皮質-大脳基底核(間接路)-視床」を介する欠神発作の発症神経回路を提案しました。

 加えて、多くの研究グループで長い間、典型的な欠神てんかんモデルとして研究されている、自然発生欠神てんかんモデルラットの「GAERSラット」において、大脳皮質ー線条体の興奮性入力を亢進するとSWDが減少し、逆に抑制するとSWDが増加することを見いだしました。これらの結果は、大脳皮質-大脳基底核-視床を介する回路が一般的な欠神てんかんの発症神経回路であることを示唆しています。

研究成果から期待される今後の展開

 本研究により、大脳皮質から大脳基底核への興奮性入力の低下によって欠神発作が生じ得ることが明らかになりました。本発症回路がSTXBP1やSCN2A以外の遺伝子変異によって引き起こされるてんかんでも成り立つのか、どこまで一般化されうるのか、さらにはより重いてんかん発作にもこの回路が役割を担っているのかなど、今後のさらなる解析が待たれます。

 本成果は、今まで想定されていた欠神発作のメカニズムに大きな転換を迫るとともに、今後、てんかんに対しての効果の高い治療法開発や、意識に関連する神経回路の理解、ジストニアなどの運動障害疾患の理解にも広く寄与すると期待できます。