ひざ軟骨の再生に有効と専門医が実証!〝立つ・寝る・座る〟の姿勢でできる[ひざジグリング]

銀座医院整形外科医師
齋藤吉由

ジグリングは股関節症の保存療法として注目の的でひざ関節症にも有効であることが判明

[さいとう・よしゆき]

1989年、久留米大学卒業。同大学病院整形外科、筑豊労災病院、福岡県立柳川病院整形外科医長、クリニックヨコヤマ副院長、泉ガーデンクリニック、東京ミッドタウンクリニック整形外科医長を経て、現職。日本整形外科学会認定整形外科専門医・スポーツ医、日本抗加齢医学会認定専門医。

 皆さんは、「ジグリング(貧乏ゆすり様運動)」という医学用語があることをご存じでしょうか。ジグリングは、貧乏ゆすりのように脚を小刻みに動かす保存療法のことです。近年、ジグリングによって変形性股関節症の痛みが改善し、股関節の関節軟骨の再生が促される可能性があると、医療現場で大きな注目を集めています。

 ジグリングを行うことで、これまで不可能とされてきた股関節の関節軟骨が再生することは、2005年に私の恩師である久留米大学名誉教授であった故・井上明生先生が発表されました。井上先生は、世界で初めてレントゲンやMRI(磁気共鳴断層撮影装置)画像などのエビデンス(医学的な根拠)によって、股関節の関節軟骨が再生することを証明したのです。

 ジグリングは、年齢に関係なく変形性股関節症の症状を改善する効果が期待できます。しかし、すべての患者さんに効果があるということではありません。重症度にもよりますが、自分の骨盤の骨を切って股関節の形状を整える関節温存手術(キアリ手術)との併用で、有効率は約75%と考えられています。

 ただし、75%というのは、人工関節以外に治療の選択肢がないといわれた、症状の重い患者さんを対象とした数字です。毎年6万人の変形性股関節症患者さんが人工関節に置き換える手術を受けているといわれ、さらに多くの患者さんが人工関節の早期導入を回避できる可能性があることを意味しています。

 人工関節には、細菌感染や脱臼などの合併症のリスクが伴います。また、耐用年数が約30年しかないという問題もあり、手術を受ける年齢が若いほど、将来的に困難な再置換手術を受けるリスクが高まります。

 ジグリングによって股関節の関節軟骨が再生するメカニズムは詳しくは解明されていません。しかし、副作用の心配がないジグリングで、リスクを伴う人工関節の手術を回避できるかもしれない――これは変形性股関節症患者さんにとって朗報以外のなにものでもないでしょう。ジグリングは、長期的に変形性股関節症の症状を改善させる、保存療法の要となる可能性を秘めた治療法なのです。

 私は以前から、股関節同様、ひざ関節にもジグリングが有効なのではないかと考えていました。そして最近になって、変形性ひざ関節症にも有効であることが分かってきたのです。次に、私が実際に診療にあたった患者さんの例をご紹介しましょう。

 Aさん(53歳・女性)は、4年ほど前から左脚のつけ根に違和感を覚えはじめ、他の病院で変形性股関節症と診断されました。しばらく様子を見ていたAさんですが、2017年から左股関節の状態が急激に悪化。動作時はもちろん、安静時にも左脚のつけ根に〝ズキッズキッ〟と刃物で刺すような激痛が走るようになったといいます。

 担当の医師から人工関節に置き換える手術をすすめられたものの、どうにかして手術を避けたいと思ったAさん。痛みをこらえながら、ワラにもすがる思いで私のもとを訪れました。

 あらためてレントゲン画像でAさんの左股関節の状態を調べたところ、末期股関節症の状態にまで悪化していることが判明。可動域(動かすことができる範囲)の制限があって靴下を履くのも困難な状態で、左ひざが初期の変形性ひざ関節症であることも分かりました。

 Aさんのように、変形性股関節症から変形性ひざ関節症を併発するケースは珍しくありません。1つの関節が担うべき役割(主に可動性)を十分に果たせない場合、その関節と連結している他の関節に悪影響が出るようになるからです。変形性股関節症によって股関節の動きが制限されると、ひざや腰に過剰な負担がかかってひざ痛や腰痛を発症してしまうおそれがあります。

ひざジグリングを毎日60分行ったらひざ関節症の激痛が消え軟骨の再生も確認

ひざジグリングを1日60分行ったAさん(53歳・女性)のレントゲン画像。左ひざの外側が3.98㍉から4.41㍉、内側が2.04㍉から2.37㍉に広がっていることが判明し、ひざジグリングを行うことで左ひざの軟骨が再生していることが確認できた

 私は、手術を拒んでいたAさんに変形性股関節症にはジグリングを自動でサポートしてくれる器械(自動ジグリング器)を使用し、変形性ひざ関節症には「ひざジグリング」を行うようにアドバイスしました。

 Aさんは、2017年9月から、自動ジグリング器の速度を中くらいに設定し、10分を1セットとして1日計90分間使用しました。さらに、寝ながら行うひざジグリングも1日計60分間行ったといいます。

 Aさんは、股関節とひざ関節にかかる負荷を減らすよう、9㌔の減量にも成功。1ヵ月後には、股関節の隙間(関節裂隙)は広がらなかったものの、左股関節の痛みが大幅に改善。足を引きずりながら歩く歩行障害が治まり、職場の同僚にも驚かれるほどだったそうです。

 さらに、Aさんは左ひざの痛みも順調に改善し、2018年7月に立位の姿勢で撮影したひざ関節のレントゲン写真では、左ひざの外側が3.98㍉から4.41㍉、内側が2.04㍉から2.37㍉に広がっていることが判明。ひざジグリングを行うことで、ひざの軟骨が再生していることが確認できたのです(「ひざジグリングによる変形性ひざ関節症の改善例」の写真参照)。

 Aさんは、寝返りを打つたびに襲われていたひざの激痛が消失し、階段の昇り降りがらくにできるようになったそうです。ひざや股関節の痛みから解放され、気持ちが前向きになったと喜ぶAさん。「自分の努力によって変形性関節症が改善したことがなによりもうれしい。温かく励ましてくれた先生にほんとうに感謝している」と感激されていました。

 私は最近、「ホルミシス」という言葉に注目しています。ホルミシスは、ある物質が高濃度あるいは大量に用いられた場合には有害なのにもかかわらず、低濃度あるいは微量に用いられる場合には有益な作用をもたらす現象を示します。

 適度な運動や筋力トレーニングが健康維持に有効であることは間違いありません。しかし、「過ぎたるは及ばざるがごとし」という言葉があるように、過度な運動や筋力トレーニングは、ひざ関節や股関節に負担をかけ、関節軟骨のすり減りを加速させる危険性があるのです。私は、ジグリングの原理もホルミシスと同様だと考えています。

ジグリングを検証して変形性関節症の治療法として確立し患者さんの負担を軽減させたい

 今回の特集では、私が考案した3種類の「ひざジグリング(ホルミシス体操)」をご紹介します。〝立つ・寝る・座る〟の3つの姿勢で行うことができます。

 立ちながら行うひざジグリングは、日本整形外科学会が転倒予防のために普及に努める「片足立ち訓練」を応用したジグリングです。ひざを持ち上げる腸腰筋と、ひざを支える大腿四頭筋を鍛えながら、股関節を小刻みに動かすことができ、バランスの訓練にも役に立ちます。

 寝ながら行うひざジグリングと、イスに座りながら行うひざジグリングは、腸腰筋を鍛えながら、股関節といっしょにひざ関節も小刻みに動かせるため、変形性ひざ関節症の予防・改善が期待できます。イスに座りながら行うジグリングは、足乗せ用ソファーにかかとを乗せて行ってもかまいません。

 3種類のひざジグリングを行うさいは、体に力を入れずにリラックスするようにしましょう。もし疲れたらすぐに中止し、らくになったら再開することを繰り返すと効果的です。

 スピードや回数は心地よいと思える範囲内で行うといいでしょう。毎日継続して行うことが大切ですが、痛みがあったり悪化したりするさいは決して我慢せず、痛みが治まってから再開するようにしましょう。

 ただし、ひざジグリングは万能ではありません。ひざ関節は曲げるだけではなく、ねじる動きもあって複雑なため、股関節と同様の改善効果が期待できるとは断言できないからです。私は、特に初期の変形性ひざ関節症の予防および進行抑制にひざジグリングが有効だと考えています。さらなる研究の結果、今後変わる可能性は十分に考えられますが、現在のところ、次のようなケースではおすすめしていません。自己判断で決めるのではなく、専門医と相談のうえでひざジグリングに取り組むようにしてください。

①ひざの曲げ伸ばしだけでも痛い(ひざ関節症末期)
②繰り返しひざが腫れて水がたまっている(関節水腫)
③O脚・X脚が強い(重度変形)
④ひざが熱を持って痛い(強い炎症または感染症)
⑤複数のひざ靭帯損傷または断裂の既往歴がある

 私は、今後もさまざまな角度からジグリングの効用を検証していきます。ジグリングという治療法をひざや股関節などの変形性関節症の保存療法として確立し、少しでも多くの患者さんの肉体的・精神的、そして経済的な負担を軽減できればと心より願っています。