適度な運動による刺激でひざの関節軟骨が再生する可能性があると国立大学で実証

大阪大学大学院医学系研究科健康スポーツ科学講座助教
金本隆司

変形性ひざ関節症の早期は運動療法が重要で末期だと人工関節の置換術が検討される

[かなもと・たかし]

1999年、大阪大学医学部医学科卒業。医学博士。同大学同学部附属病院、大阪労災病院、八尾市立病院、阪南中央病院勤務を経て、2018年より現職。日本整形外科学会専門医、日本リハビリテーション医学会専門医。

 変形性ひざ関節症が末期まで進行してしまい、痛みやこわばりなどによって日常生活に大きな支障が出ている場合、変形したひざ関節を人工関節に置き換える「人工関節置換術」が検討されます。ただし、人工ひざ関節の耐用年数は一般的に15~20年程度といわれており、若年の患者さんには積極的にすすめられないのが現状です。

 そのため、変形性ひざ関節症に対しては、進行予防とあわせて早めに治療に取り組むことが大切です。末期でなければ運動療法が基本となり、重要視されています。動かすたびに痛みが起こるため、患者さんはなるべく安静にしていようと考えがちですが、運動療法が変形性ひざ関節症に有効であることはさまざまな研究で確かめられています。動物実験では、適度な運動が軟骨再生に有用であることを示す結果が得られているものもあります。

 さらに、近年では「早期変形性ひざ関節症」という概念に注目が集まっています。早期変形性ひざ関節症は、持続する痛みがあるにもかかわらず、見た目はもちろんレントゲン画像でも判断できない状態で、変形性ひざ関節症の一歩手前の予備群と定義されています。

マウスの骨芽細胞に1日1時間、ピストン運動による負荷をかけた。その結果、軽度な負荷のさいに骨芽細胞の成熟が最も促進されることが判明。骨の修復・強化を担う骨芽細胞の成熟は骨の修復力の向上を意味する

 進行してからではなく、早期変形性ひざ関節症の段階での診断と治療の開始が有用と考えられており、私たちの研究グループが行った実験でも、早期の段階で治療に取り組んだほうがいいという考えを支持する結果が得られています。

 私たちの研究グループは、運動による負荷がひざ関節の軟骨細胞に及ぼす影響を調べるため、ヒトの細胞を用いた実験を行いました。私たちが採用している実験方法で特徴的といえるのが、細胞の三次元培養です。

 細胞実験は、手術などで不要になったひざ関節の軟骨細胞を培養して行われますが、通常は二次元培養という手法が取られます。しかし、二次元培養では、細胞を平面的にしか培養できないという問題がありました。私たちが採用している三次元培養では、細胞を立体的に培養することができ、人間の体内に近い状態を再現することが可能になります。

適度な運動負荷を加えると関節軟骨の修復・再生の促進に重要な物質が増加

1日1時間、ヒトのひざ関節の軟骨細胞にピストン運動による負荷をかけた実験。その結果、軟骨の修復・再生に重要な物質であるSOX9やBMP2の量が有意に増加した

 実験では、ピストン運動で一定の負荷を繰り返してひざ関節の軟骨細胞に与える、特殊な装置を使用しました。ピストン運動による負荷の大きさを0~40㌔パスカル(圧力の単位)の範囲で変えながら、ひざ関節の軟骨細胞に1日1時間の刺激を与えて反応の違いを観察しました。

 結果として、軟骨や滑膜、半月板などの細胞から生産される炎症性サイトカイン(炎症を強めて痛みの原因となる物質)の量は、負荷が大きくなるほど増えることが分かりました。これは、骨棘や関節軟骨のかけらによる刺激を介さずに、運動が直接的に炎症性サイトカインの量を増やし、痛みを増悪させてしまう可能性を示しています。

 一方で興味深いのは、負荷が0㌔パスカルのときと比べて、20㌔パスカルのときのほうがSOX9やBMP2といった物質が明らかに増加したという点です。SOX9やBMP2は、関節軟骨の修復・再生の促進に重要な物質です。ただし、ひざ関節の軟骨細胞にかかる負荷が大きすぎると、SOX9やBMP2の量が減少することも分かりました。

 さらに、マウスの骨芽細胞(新しい骨を作る働きを持つ細胞)を使って同様の実験を行ったところ、5㌔パスカルの負荷のさいに骨芽細胞の成熟が最も促進されることが分かったのです。これは、軽度の運動による刺激で骨が強化される可能性を示唆しています。

 私たちが行った研究の結果は、適度な運動による刺激が関節を構成する軟骨や骨の修復・再生に有用であるという考えを支持しています。適切な運動療法であれば、変形性ひざ関節症の治療に有効ということが確認できたといえるでしょう。もちろん、登山やマラソンなどの過度な運動は痛みの悪化要因となる炎症性サイトカインの発現を促進してしまうおそれがあるため、見極めがとても大切です。

 今後の課題として、ピストン運動による負荷の大きさが実際の日常生活でどの程度の負荷に相当するかを突き止めることが挙げられます。つまり、どの程度が「適度な運動」なのかを見極める必要があるのです。ただし、患者さんによっては歩くだけでも過剰な負荷となる場合もあるため、万人に共通する指標を求めるのは困難かもしれません。

 また、適度な運動がよい効果を生むしくみについても不明な部分が多く、今後の研究が期待されています。手術後にベッドで数日間寝ているだけで筋肉は大幅に落ちていきますし、スポーツ選手の骨密度が競技種目によって違うといった報告もあります。運動量や運動の種類によって、筋肉・骨などの運動器の細胞への影響が異なることが推測されます。

「ひざ伸ばし運動」と「タオル押し運動」で大腿四頭筋が鍛えられ歩行時の負担が軽減

金本医師がすすめる2大体操

 私が変形性ひざ関節症の患者さんにおすすめしている運動は、「ひざ伸ばし運動」と「タオル押し運動」です。どちらの運動も大腿四頭筋(太ももの前面にある筋肉)の筋力を維持することを目的としています。変形性ひざ関節症の痛みに苦しむほとんどの方にとって危険が少なく、メリットの大きい運動です。ひざをしっかり伸ばすことができれば、歩行時の負担を減らすこともできます。

 1つ目のひざ伸ばし運動は、リハビリテーションの現場でよく用いられる方法で、イスに座りながら脚を伸ばした状態を維持します。しっかりとひざを伸ばしきるようにして、大腿四頭筋を意識することがコツです。

 2つ目のタオル押し運動は、私が一推ししている方法です。床に座って丸めたタオルをひざ裏に置き、ひざを伸ばすようにしてタオルを押しつぶします。初めは痛みがあったり、力を入れる感覚が分かりにくかったりするかもしれませんが、継続することで痛みが軽減して効果を実感されることと思います。 

 一方、変形性ひざ関節症の患者さんの中には、曲げにくくなったひざを無理に曲げようと努力する人が少なくありません。運動療法に取り組むさいも、曲げる角度が強く意識されることが多いようです。もちろん、ひざを曲げる角度が重要なことは間違いないのですが、ひざを曲げる動作は関節の負担になることがあります。中でも、正座に近いような深い角度に曲げる動きは、想像以上に関節の負担となるおそれがあります。ひざを曲げる運動に取り組むさいには注意が必要です。

 進行前の変形性ひざ関節症への対応として、ひざ伸ばし運動とタオル押し運動を日常生活の中に取り入れることでひざの痛みやこわばりの軽減、生活の質の向上を目指すことができます。活動量を維持したり、定期的な運動習慣を取り入れたりすることは、間接的に変形性ひざ関節症の進行予防につながると期待できます。