変形性ひざ関節症は早期発見・早期治療が重要で加齢・肥満・O脚の女性ほど要警戒

筑波大学医学医療系整形外科運動器再生医療学准教授 
吉岡友和

変形性ひざ関節症は動きはじめの痛みが特徴で関節軟骨のすり減りが原因

[よしおか・ともかず]

1999年、筑波大学医学専門学群卒業。日本整形外科学会認定整形外科専門医、日本体育協会公認スポーツドクター、日本再生医療学会再生医療認定医。専門はひざ関節外科。ひざ関節疾患に対する手術治療(関節鏡視下靭帯・半月板・軟骨手術、関節温存骨切り術、人工ひざ関節置換術など)を数多く行っている。

 座っている状態から急に立ち上がったときなどに〝ズキッ〟という瞬間的な痛みがひざに走ることはないでしょうか。ふだんはなんともないのに動きはじめに痛む「スターティングペイン」は、変形性ひざ関節症の特徴的な症状の1つです。変形性ひざ関節症は、ひざの関節軟骨がすり減り、関節炎や関節の変形が生じて痛みなどが起こる病気です。

 ひざ関節は、太ももの大腿骨とすねの脛骨、ひざのお皿と呼ばれる膝蓋骨で構成されています。脛骨のすぐ外側には、腓骨と呼ばれる細い骨があり、靭帯によって大腿骨・脛骨と結ばれています(健康な右ひざ関節の図参照)。

 ひざ関節は、関節包という袋に包まれています。関節包の内側には滑膜という組織があり、滑膜を構成している滑膜細胞は、関節液の分泌と吸収を行っています。関節液には、関節の動きをスムーズにする潤滑油としての役割があります。さらに、関節軟骨に水分や酸素、栄養を運ぶ役割もあります。

 ひざの関節軟骨は、大腿骨と脛骨の先端部分の表面や、膝蓋骨の裏側の表面を覆って保護しています。弾力性がある関節軟骨は、ひざに加わる衝撃を吸収して分散したり、関節の動きを滑らかにしたりする働きがあります。

健康な右ひざ関節

 ひざの動きに密接に関わっているのが半月板です。半月板は、大腿骨と脛骨の関節軟骨の隙間にある、三日月のような形をした板状の軟骨です。ひざ関節の内側と外側に1つずつあり、同じ軟骨でも関節軟骨とは種類が異なります。

 半月板には、ひざにかかる負荷や衝撃を和らげるクッションの役割やひざ関節を滑らかに動かす役割があります。ケガや加齢などによる半月板の損傷や質の低下によって、関節軟骨への負荷が大きくなることが分かっています。

 関節軟骨がすり減って変形性ひざ関節症になると、大腿骨と脛骨の隙間が狭まって「骨棘」と呼ばれる骨の突起が形成されたり、関節軟骨のかけらができたりします。一般的に、骨棘や関節軟骨のかけらが、骨や関節包、滑膜などの周辺の組織に刺激を与えて炎症を引き起こすと、ひざに痛みが起こるといわれています。

 炎症が起こると、プロスタグランジンE2やインターロイキンなどの「炎症性サイトカイン」が産生されます。炎症性サイトカインは、炎症反応を促進する物質で、痛みをさらに増大させてしまうのです。

 関節軟骨がすり減ると、衝撃を吸収する働きも低下します。骨に大きな衝撃が加わることも痛みの原因の1つです。特に、変形性ひざ関節症が末期まで進んで関節軟骨の下で土台の働きをしている硬い骨(軟骨下骨)が露出すると、骨どうしがぶつかり合って強烈な痛みが生じるようになります。

変形性ひざ関節症の患者数は2500万人で治療を受けているのは3分の1以下と推定

変形性ひざ関節症の進行度

 変形性ひざ関節症の症状の進行度合い(病期)は、骨棘や関節の隙間(関節裂隙)によって分類されます。国際的には「ケルグレン・ローレンス法(KL法)」が用いられています。KL法は、寝た状態で撮影したひざ関節のレントゲン写真を用いてひざ関節の状態を調べる方法で、グレード0~4の五段階に分類されます(変形性ひざ関節症の進行度の図参照)。

 東京大学大学院医学系研究科の吉村典子特任教授らのグループが行った大規模調査によると、ひざ関節のレントゲン画像で変形が見られる割合は、40歳以上で女性が62.4%、男性が42.6%と報告されています。この割合を日本の人口に当てはめてみると、40歳以上で約2500万人にも上ります。現在、変形性ひざ関節症の治療を受けている患者数は約800万人と推定され、高齢化が進む中でさらに増加すると考えられています。

 変形性ひざ関節症は、加齢や肥満などの要因が複雑に絡み合って起こる「一次性」と、原因が明らかな「二次性」に分けられます。一次性は、加齢や肥満とともに、高血糖や脂質異常、高血圧など、メタボリック症候群のリスクが高ければ高いほど、変形性ひざ関節症になるリスクも高くなることが指摘されています。

 一方、二次性の変形性ひざ関節症は、靭帯や半月板、関節軟骨などの損傷によって引き起こされます。二次性の変形性ひざ関節症は、一次性より若い世代に起こる傾向があります。

 変形性ひざ関節症が発症する明確な原因は、いまだに解明されていません。しかし、変形性ひざ関節症を誘発する危険因子は判明しています。主な危険因子について解説しましょう。

体重が3㌔増加するとひざにかかる負担は4倍の12㌔増で軟骨がすり減りやすくなる

年齢とともに変形性ひざ関節症患者の割合が増え、男女比では女性が多い
※Yoshimura N,Muraki S,Oka H et al:J Bone Miner Metab 27:620-628(2009)より作成

● 加齢
 変形性ひざ関節症は中高年以降に頻発し、年齢が高くなるにつれて患者数も増加します。長く生きるほど、ひざにかかる負担も蓄積することが影響していると考えられています。

● 肥満
 体重が重いほど、ひざにかかる負担は大きくなります。3㌔太れば、ひざにかかる負担が12㌔も増えるといわれています。ひざにかかる負担が増えると、ひざの関節軟骨もすり減りやすくなり、変形性ひざ関節症のリスクが高くなります。

● 女性
 変形性ひざ関節症は男性より女性がかかりやすい病気です。男女比は1対4で、女性に多く見られると報告されています。女性は男性よりも筋力が弱いことや、閉経を迎えて女性ホルモンの分泌量が減少して骨が弱くなることなど、さまざまな説がありますが、詳細は分かっていません。

● O脚・X脚
 日本人は一般的にO脚になる傾向があり、日本人の変形性ひざ関節症はO脚の人に多いのが特徴です。O脚やX脚が変形性ひざ関節症を引き起こしやすい理由は、ひざにかかる荷重のバランスの乱れにあります。通常、ひざ関節は荷重を分散して受け止めます。しかし、O脚はひざの内側、X脚は外側に荷重が偏るため、荷重が集中する側の関節軟骨がすり減りやすくなってしまうのです。

● 遺伝
 家族に変形性ひざ関節症の患者さんがいると、発症する確率が高くなるという調査報告があり、なんらかの遺伝的な要素が関係していると考えられています。現在、研究が活発に行われています。

● 重労働・スポーツ
 ひざの関節を長い間繰り返し使うと、軟骨がすり減って変形性ひざ関節症を発症しやすくなります。肉体労働者やスポーツ選手など、毎日のように重たいものを運んだり、ひざに負担をかける激しい運動をしていたりすると、ひざにかかる負担が増加して関節軟骨がすり減りやすくなってしまいます。

正座がしにくくなると変形性ひざ関節症の危険大で、悪化すると安静時にも痛みが発生

当てはまる項目が1つでもある場合は、変形性ひざ関節症の疑いがあるため、早期に受診することが大切

 変形性ひざ関節症は、自覚症状がほとんどなくジワジワと進行し、ある日突然、痛みを自覚するようになる場合が少なくありません。痛み以外にも、ひざのこわばりや腫れ、曲げ伸ばしの制限が起こることがあります。腫れて曲げ伸ばしできる範囲(可動域)が狭くなるため、正座がしにくくなったり、ひざをまっすぐに伸ばせなくなったりします。

 症状が進行すると、ひざを少し動かしたり、ひざに体重をかけたりするだけでも痛みが起こるようになります。治療せずに放置すると、安静時や夜間時にもひざの痛みに襲われるようになるのです。

 ひざ関節に炎症が起こると、水がたまってひざが腫れることがあります。いわゆる「水」とは、滑膜で分泌・吸収される関節液のことです。

 ふだんは関節液の分泌と吸収のバランスが保たれていますが、滑膜に炎症が起こると過剰に分泌されて吸収が間に合わなくなります。その結果、関節液が多くなり、ひざの皿の上部に水がたまります。関節液には、ひざの痛みを引き起こす炎症物質が含まれているため、関節液が過剰分泌することで痛みも増していくのです。

 変形性ひざ関節症を治療せずに放置すると、確実に進行してしまいます。しかし、しっかりと治療を受けることで、進行のスピードを緩やかにすることは十分可能です。

 変形性ひざ関節症の治療には、薬物療法、理学療法、手術療法があります。末期になれば人工関節置換術という選択肢も検討されますが、ほとんどの患者さんは薬物療法や理学療法によってひざ関節を温存することができます。

 薬物療法には、湿布薬や軟膏などの外用薬、消炎鎮痛剤の内服薬、ヒアルロン酸などの関節内注射があります。理学療法とは、いわゆる運動療法のことです。大腿四頭筋(太ももの前面にある大きな筋肉)の強化や関節の可動域の改善を目指す訓練があります。その他、インソールという足底板を使用する装具療法や温熱療法などもあります。

 変形性ひざ関節症は、早期発見によって進行を抑えることがなにより大切です。まずは、上の「変形性ひざ関節症チェックリスト」で自分の状態を確認してみましょう。当てはまる項目が1つでもある場合は、早めに専門医の診察を受けるようにしてください。