長寿遺伝子が慢性腎臓病によって機能低下すると判明!加工食品の無機リンに要注意

自治医科大学分子病態治療研究センター抗加齢医学研究部教授
黒尾 誠

老化抑制作用のあるクロトーたんぱくは腎機能が低下すると減少することが判明

[くろお・まこと]

1960年、栃木県生まれ。1985年、東京大学医学部卒業。医学博士。東京都老人医療センター(現・東京都健康長寿医療センター)医員、東京大学医学部附属病院医員、国立精神神経センター研究員、米国テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンター助教授・准教授・教授を経て、2013年より現職。老化抑制遺伝子のクロトー遺伝子を発見し、研究を重ねている。米国腎臓学会に所属。

 腎臓が老化や寿命に深く関わっている臓器であることが、クロトー遺伝子の発見によって分かってきました。この記事では、クロトー遺伝子とリンの関係をもとに腎臓と老化の関わりについて解説しましょう。

 私がクロトー遺伝子を発見できたのは、研究用に高血圧のマウス(実験用のネズミ)を生み出そうと遺伝子操作をしていたことがきっかけです。誤って遺伝子を1つ壊してしまった結果、偶然にも老化が早まるマウスが生まれました。壊してしまった遺伝子を調べてみると、未発見の遺伝子だったのです。

 研究を重ねると、この遺伝子がないと老化が早まり、逆に多く存在すると老化を抑える「老化抑制遺伝子」であると分かりました。私は発見したこの遺伝子を、生命の糸を紡ぐギリシャ神話の女神の名前「クロトー」にちなんで「クロトー遺伝子」と命名しました。

 クロトー遺伝子が欠損したマウスには、寿命の短縮、成長障害、不妊、胸腺や皮膚の萎縮、骨粗鬆症、動脈硬化(血管の老化)、認知症など、加齢によって起こるさまざまな症状が現れます。

 クロトー遺伝子は「クロトーたんぱく」を生産するための設計図に当たります。クロトー遺伝子が壊れていなくても、なんらかの原因でクロトーたんぱくの生産量が減少すると、人間にもクロトー遺伝子が欠損したマウスと同様の症状が現れると考えられます。

 研究を進めると、クロトーたんぱくは主に腎臓で生産されていることが分かりました。さらに、慢性腎臓病(CKD)を発症して腎機能が低下すると、クロトーたんぱくも減少すると判明しています。腎臓が老化に関わる重要な臓器だと証明されつつあるのです。

 さらに、クロトーたんぱくの働きが明らかになると、「リン」が老化を促す原因物質であるという考え方が生まれました。リンとは、私たちの体に不可欠な栄養素の1つです。骨や歯、細胞膜を作るさいに必要なミネラルで、エネルギーを生み出すときにも使われています。一方で、リンが過剰になると血管の石灰化が起こり、動脈硬化を引き起こすことが知られています。

通常のマウスの寿命は約2年。クロトー遺伝子を欠損させたマウスの寿命は約2ヵ月に短くなり、クロトー遺伝子を増やしたマウスは寿命が約3年に延びた

 クロトー遺伝子欠損マウスに低リン食を与えると、老化現象が大幅に改善されることが分かりました。また、哺乳類の研究では、血中リン濃度が高い動物ほど寿命が短いことが分かっています。人間に関するデータでは、血中リン濃度の高い人は、低めの人に比べて7倍も死亡率が高くなっています。

 リンが体内に過剰にあれば、腎臓が排泄して量を調整します。リンを排泄する働きに、クロトー遺伝子が深く関わっていることが、近年の研究で明らかになってきたのです。

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1日に必要なリンの摂取量は600㍉㌘前後だが、現代人は食品だけで1600㍉㌘、食品添加物を加えると、さらに多くとっているといわれている。食品に含まれているリンの多くは有機リンで吸収率は60%前後。多くの食品添加物に含まれる無機リンは吸収率が100%なので要注意

 リンの排泄に欠かせないのが、クロトーたんぱくと、ホルモンの1種「FGF23」です。リンを摂取すると、骨からFGF23が分泌されます。FGF23は腎臓に届くと、クロトーたんぱくと結びつきます。FGF23がクロトーたんぱくと結びつくことで、腎臓は体内のリンが過剰であると認識し、リンを尿中に排泄するのです。

 腎臓は血液をろ過して尿を作る「ネフロン」という小さなフィルターの集合体です。腎臓の左右それぞれに約100万個のネフロンがありますが、加齢とともに数は減少します。ネフロンが減っているにもかかわらずリンの摂取量を減らさないでいると、リンの排泄量を増やす必要が生じます。すると、FGF23の分泌量が増加し、クロトーたんぱくの生産が減って腎機能がますます低下するのです。

 クロトー遺伝子の減少によって生じる悪循環を断ち切るには、ネフロン数の減少に応じたリンの摂取制限が重要です。リンの適切な摂取量は、1日600㍉㌘ほどです。ところが、現在の食生活では1日1600㍉㌘も摂取しているといわれています。さらに、1600㍉㌘の中には、食品添加物に含まれるリンは計算されていません。現代人はリンが不足することはまれで、過剰に摂取している傾向にあるのです。

 リンの質も重要です。リンには、有機と無機の2種類があります。有機リンは体内への吸収率が60%程度ですが、無機リンは100%です。同じ量のリンを摂取しても、無機リンのほうが体内に多く吸収されてしまうのです。

 無機リンは、食品添加物に多く含まれています。インスタント食品や清涼飲料水など、食品添加物の多い加工食品を極力控えることが、腎臓に優しく、老化を進行させない食生活といえるでしょう。

 リンを特に多く含む食品は、乳製品、練り製品(はんぺんやちくわ類)、ソバ、小魚、ナッツ類です。大豆食品にはリンが多いものの、吸収率が低くなっています。一方、リンの少ない食品は、野菜類、キノコ類、海藻類、イモ類、コンニャク、春雨などです。和食が長寿の秘訣である理由は、リンが少ないことにあるのかもしれません。

 近年、慢性腎臓病治療における運動療法が注目を集めています。クロトー遺伝子の研究者である私も、慢性腎臓病に対して運動療法は有効と考えています。合併症によって骨量や筋肉量が減ると、骨や筋肉に蓄えられていたリンが血中に放出され、リンを過剰に摂取したときのようにFGF23の量が増加してクロトーたんぱくを減少させてしまうおそれがあるのです。定期的に運動を行って骨量や筋肉量が維持できれば、クロトーたんぱくの減少を抑えられ、腎機能の維持につながるのではないかと考えられます。

 いつまでも健康で若々しくいるためには、腎機能を維持してクロトーたんぱくの生産量を維持することが大切です。ふだんからリンの摂取に注意し、腎臓に優しい生活を心がけましょう。