産後うつが子どもの話しことば発達への影響を解明

浜松医科大学

 浜松医科大学子どものこころの発達研究センターの研究グループは、1258名の新生児と1138名のその母親が参加する「浜松母と子の出生コホート」を通じて、母親の「産後うつ」が乳幼児の話しことばの発達をおよそ3年間にわたって遅延させる可能性があることを明らかにしました。

「産後うつ」とは

 「産後うつ」(産後抑うつと呼ぶこともあります)とは、出産する女性のうちおよそ15%が経験するといわれ、抑うつ気分(悲しい気持ちになる)、不安、意欲低下などの症状が数日間にわたりあらわれます。産後うつは、産後1か月以内に発症することが一般的ですが(15%のうちの11%)、産後1~3か月に発症することもあり(4%)、2つの産後うつは症状のあらわれや経過も異なると考えられています。母親の産後うつが子どもの発達にさまざまな影響をもたらす可能性があり、とりわけ、話しことばの発達に対する影響が注目されています。一部の研究は、産後うつが母親と子どもをつなぐ愛着の形成を遅らせ、それを通じて話しことばの発達に遅れが生ずるのではないかと指摘しています。しかし、確かなことはなにもわかっていません。子どもの長期追跡を行った大規模研究がほとんどないためです。

子どもたちの話し言葉の発達パターンを3群に分け解析

 研究グループは、浜松医科大学子どものこころの発達研究センターが2007年より運営する「浜松母と子の出生コホート」(1258名の新生児と1138名の母親が参加)のデータを利用して、すべての母親を、産後1か月以内に産後うつを発症する「早期発症群」、産後1~3か月に産後うつを発症する「後期発症群」、産後うつを発症しない「対照群」のいずれかに選別しました。ついで、その母親から生まれた子どもたちを約40か月(3年4か月)にわたり追跡し、3つの群に属する子どもたちの話しことばの発達のパターンを解析しました。

後期発症群の子どもに影響を確認

 解析対象となった969名の子どもの10、14、18、24、32、40か月における話しことばの発達を、子どもの発達評価研究でよくつかわれる評価尺度(MullenScalesofEarlyLearning)を用いて標準化し(いわゆる)偏差値を計算しました。その結果、「対照群」の子ども(823名、全体の85%)と比較して、「早期発症群」の子ども(103名、11%)は10~40か月のすべての月齢において話しことばの偏差値に低下がみられませんでしたが、「後期発症群」の子ども(43名、4%)は、18か月以降徐々に有意なスコアの低下を示しました。

 この結果は、「後期発症群」の母親からうまれた子どもが、1歳半ばから話しことばの発達の遅れを示し、その遅れ(およそ標準偏差の0.6倍)が少なくとも3歳すぎまで持続することを意味しています。

本研究結果から今後求められること

 「早期発症群」の産後うつは、子どもの話しことばの3歳すぎまでの発達にはほとんど影響を及ぼさなかった一方、「後期発症群」の産後うつは明らかに話しことばの発達を遅らせる効果がみられました。このことは、産後うつのスクリーニングの時期を3か月まで伸ばすべきであることを示唆しています。

 また、産後うつの一部のみが子どもの話しことばの発達に影響していること、そして、その影響が生後間もなくではなく1歳6か月からあらわれることは、「産後うつが愛着形成を阻害し、その結果として話しことばの発達を遅らせる」という先行研究の見解とは完全には一致していません。すなわち、産後うつが愛着形成を阻害するという発達心理学的なシナリオだけでなく、産後うつの医学的・生物学的な理解を深める必要があると考えられます。さらに、「早期発症群」と「後期発症群」の違いを明らかにする必要性も明らかになりました。その違いを踏まえた発達心理学的介入、医学的介入のあり方について、さらなる検討が求められています。