肺がんの分子標的薬耐性を克服できる可能性が明らかに

金沢大学

 金沢大学と附属病院がんセンターの共同研究グループは、日本人の非小細胞肺がん患者の5%程度を占めるALK肺がん(ALK 融合遺伝子陽性肺がん)において、 がんの増殖や生存に重要な役割を果している分子にピンポイントで作用する薬、分子標的薬にさらされた肺がん細胞が遺伝子変異および、上皮間葉転換(細胞極性や周囲細胞との細胞接着機能を有する上皮系細胞がその機能を失って浸潤能を得ることで、間葉系細胞へと変化するプロセス)を起こすことで、薬剤に対して耐性を獲得することを初めて明らかにしました。

これまでのがんの分子標的薬の欠点

 がんの分子標的薬は、高い確率で効果が現れるものの、腫瘍が薬に耐性を獲得して再発することが問題でした。その原因として、分子標的薬が結合するがん細胞内の分子に遺伝子変異が起こり、結合部位の構造が変化することで、耐性化することが広く知られています。また最近では、遺伝子変異以外の新たな耐性獲得のメカニズムとして、上皮間葉転換の関与が疑われています。しかし、上皮間葉転換と薬剤耐性との詳しい関連性は分かっておらず、その克服治療法はいまだ確立されていません。

がん細胞が上皮間葉転換を引き起こすメカニズムと対処法

 本研究では、まず、分子標的薬に耐性化したALK肺がん患者の腫瘍組織を解析しました。その結果、腫瘍組織内で遺伝子変異が起こっている領域と、上皮間葉転換が起こっている領域の両方が独立して存在することを発見しました。この結果から、遺伝子変異と上皮間葉転換のそれぞれが、分子標的薬に対する耐性の原因になっていると考えられました。
遺伝子変異を克服するための次世代分子標的薬はすでに臨床で使用されていますが、上皮間葉転換による耐性は治療法がありません。

 そこで、がん細胞が上皮間葉転換を引き起こすメカニズムを調べました。その結果、がん細胞は遺伝子発現を制御するマイクロRNAのうちmiR-200cの発現を低下させることで、上皮間葉転換誘導転写因子であるZEB1の上昇および細胞接着因子であるE-cadherinの低下を誘導し、上皮系から間葉系へと形質を変化させることで、分子標的薬へ耐性化していることを突き止めました。

 次に、間葉系のがん細胞を上皮系へと状態を戻すことで、その耐性を克服できるのではないかと考え、miR-200cの発現を上げることのできる薬剤の探索を行いました。その結果、HDAC(ヒストン脱アセチル化酵素)阻害薬の一種であるキジノスタットで治療することで、間葉系のがん細胞を上皮系へと戻し、分子標的薬へ感受化させることに成功しました。さらに、動物実験において、キジノスタットで治療した後に分子標的薬で治療することで、がん細胞の分子標的薬への耐性化を著明に抑えられることを発見しました。

 以上の結果から、HDAC阻害薬と次世代分子標的薬の順を追った治療により、遺伝子変異と上皮間葉転換によるALK肺がんの分子標的薬耐性を克服できる可能性が明らかになりました。

本研究から期待される今後の展開

 本研究成果により、分子標的薬へ耐性化し上皮間葉転換が確認された患者に、HDAC阻害薬と次世代分子標的薬で連続的に治療することで、その耐性を解除し、がんの根治あるいは再発までの期間を著明に延ばせることが期待されます。今後は、効果や副作用の面から最適なHDAC阻害薬を選び出し、次世代分子標的薬と併用する臨床試験を行いたいと考えています。