L型合成酵素(L-PGDS)が肥満抑制効果に関係することが明らかに

東大病院

 東京大学、大阪薬科大学、第一薬科大学、筑波大学の研究グループは、肥満制御における「PGD2」のはたらきを調べるため、脂肪細胞でPGD2を生合成するL型酵素「L-PGDS」を作ることができないマウスを作製し、肥満におけるL-PGDSのはたらきを解析しました。正常なマウスと脂肪細胞でL-PGDSを作ることができないマウスに11週間、高脂肪食を与えて肥満にさせたところ、脂肪細胞でL-PGDSを作ることができないマウスでは、正常なマウスと比べて体重増加が20%以上減少し、内臓や皮下の脂肪量も減少していました。さらに、糖尿病の指標となるインスリン感受性も改善されていることが分かりました。

増加傾向にある日本の糖尿病患者

 肥満は糖尿病(インスリン抵抗性糖尿病)、高血圧、脂質異常症など、多くの生活習慣病の原因となることから、肥満の予防や解消は急務の課題となっています。日本の糖尿病有病者数は約1,000万人と推計されていますが(平成28年厚生省「国民健康・栄養調査」)、特に肥満が原因となってインスリンが効かなくなり、血糖値が下がらないインスリン抵抗性糖尿病の患者数は、増加の一途をたどっています。

 しかし、肥満は複雑に制御されていることから、肥満のメカニズムを解明し、新たな抗肥満薬の開発につながる「肥満調節分子」の発見が期待されています。肥満では、体の組織に脂質が蓄積するだけでなく、脂質自体が、直接、肥満や生活習慣病の病態の進展に関わることが知られています。脂質の一つであるPGD2と、PGD2のL型合成酵素(L-PGDS)が脂肪細胞に蓄積した脂肪の分解の抑制に関わることが発見されています。

L-PGDSを作ることができないマウスを用いた実験

 本研究グループは、これまでにPGD2が脂肪細胞に蓄積した脂肪の分解を抑制することを発見していました。さらに、PGD2を生合成するL-PGDSの遺伝子発現が肥満マウスの脂肪組織において上昇することを発見しました。

 そこで、肥満制御におけるL-PGDSとPGD2のはたらきを調べるために、脂肪細胞で特異的にL-PGDSを作ることができないようにしたマウスを作製して解析しました。正常なマウスと脂肪細胞でL-PGDSを作ることができないマウスに11週間、普通食あるいは高脂肪食を与えたところ、普通食では両者に肥満の程度や脂肪細胞の大きさに差は現れないものの、高脂肪食を与えたときには、脂肪細胞でL-PGDSを作ることができないマウスでは、正常なマウスと比べて体重増加が20%以上減少し、内臓や皮下の脂肪量も減少し、個々の脂肪細胞の大きさも小さくなっていました。また、脂肪細胞の分化の程度を知るさまざまなマーカー遺伝子や脂肪酸の生合成に関わる多くの遺伝子の発現は、脂肪細胞でL-PGDSを作ることができないマウスで、いずれも低下していました。血液中のコレステロール、脂質、グルコースの値は、正常マウスと比べて、脂肪細胞でL-PGDSを作ることができないマウスでは低下しており、これらメタボリックシンドロームで異常となる血液中の値も改善されていることが分かりました。

 さらに、肥満の脂肪組織にはマクロファージが浸潤し、炎症状態になることが知られていますが、脂肪細胞でL-PGDSを作ることができないマウスでは、炎症を誘導するマクロファージのマーカー遺伝子であるF4/80やCD11cの発現レベルが低下しており、糖尿病の指標となるインスリン感受性も改善されていることが分かりました。

肥満の新しい予防法や治療法への期待

 肥満の進展を調節する酵素であるPGD2を作るL-PGDSを脂肪細胞で作ることができないようにしたマウスでは、食事による体重増加が抑制され、インスリン感受性が改善されたことから、L-PGDSが肥満、さらにインスリン抵抗性を進展させるはたらきがあることが明らかとなりました。

 L-PGDSのはたらきを抑える薬剤は、肥満の新しい予防法や治療法の開発につながることが期待されます。