足腰の痛み・しびれだけじゃない!排尿・排便障害など脊柱管狭窄症に伴う合併症を解説

長野寿光会上山田病院/財団大西会千曲中央病院整形外科医師
吉松俊一

足腰の痛み・しびれに加えて間欠性跛行の歩行障害があれば脊柱管狭窄症を疑え

[よしまつ・しゅういち]

日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医、日本リハビリテーション医学会認定臨床医、日本体育協会公認スポーツドクターとして活躍。主に子どもの肩・ひじ関節、またスポーツ現場で見られる腰痛と遺伝の関連性などを40年以上の長期にわたって研究。さらに、日本屈指のスポーツドクターで、負傷したプロスポーツ選手が数多く治療に訪れ、復帰に貢献している。

 若い人や中高年の一部によく見られるのは、精神的・肉体的ストレスが原因の腰痛や腰椎椎間板ヘルニア(以下、椎間板ヘルニアと略す)です。その一方で、高齢者には腰部脊柱管狭窄症(以下、脊柱管狭窄症と略す)が多く見られます。

 椎間板は、バウムクーヘンの中にクリームが詰まったような構造をしています。外側のバームクーヘンが「線維輪」と呼ばれる丈夫で柔軟性のある組織で、その中心に収まっているクリームが「髄核」と呼ばれる軟らかい組織です。若い人の場合は、弾力性のある線維輪のバウムクーヘンに、髄核のクリームがたっぷり含まれています。しかし、高齢者の場合は、線維輪のバウムクーヘンのあちこちに亀裂が生じ、中の髄核のクリームがすべて外に漏れ出してスカスカの状態になっています。

 髄核がなければ、痛みを引き起こす炎症物質も作り出されません。そのため、高齢者の場合は、椎間板ヘルニアの形態異常があっても、痛みを感じないのが一般的です。

 ただし、椎間板ヘルニアで飛び出した線維輪は、脊椎(背骨)を狭窄して神経を圧迫します。その結果、椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症を合併し、足腰の痛みやしびれといった脊柱管狭窄症の症状が現れるケースもあります。

腰部脊柱管狭窄症の人は、体を反らすと椎間板が神経を圧迫しやすくなり痛みが出る。前かがみになると神経への圧迫が緩み、痛みが軽くなる

 椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症による神経の圧迫によって発生する足腰の痛みやしびれのことを「坐骨神経痛」といいます。坐骨神経は、人体でいちばん長くて太い末梢神経です。腰から骨盤、お尻、太もも、ひざの裏辺りを通って、足先まで伸びています。

 椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症の症状の違いで代表的なのが「間欠性跛行」の有無です。間欠性跛行は、歩いたり立ったりしていると、足腰に痛みやしびれ、脱力感などが生じる症状です。炎症によって引き起こされる椎間板ヘルニアの症状とは異なり、脊柱管狭窄症の症状は血流障害による酸素不足によって引き起こされるため、多くのケースで間欠性跛行を伴います。 立った姿勢で神経の圧迫や血流の障害が起こったり、運動に伴って酸素不足に陥ったりすることによって、足腰の痛みやしびれが悪化するものの、少し休むと再び歩けるようになるのが間欠性跛行の特徴です。ほんの数10㍍歩いただけで足腰の痛みやしびれが悪化し、1度座って休まないと再び歩けないという患者さんも少なくありません。

脊柱管狭窄症は圧迫されている神経の部位によって現れる症状や部位が異なる

馬尾:脊髄神経から枝分かれした神経の束。腰椎部の脊柱管に存在する
神経根:馬尾から枝分かれした神経が脊柱管から左右に出ていく部分

 坐骨神経痛や間欠性跛行の症状は自律神経の障害を伴うことがあり、季節によって波があります。最も悪くなるのは血流が悪化しやすい冬の寒い季節、その次に真夏の暑い季節といわれています。暑い季節に症状が悪くなるのは、発汗による脱水症状や冷房による冷えの影響で血流が悪化するためと考えられます。

 脊柱管狭窄症の患者さんは、足腰の痛みやしびれ、だるさを訴えることが多く、中にはひざや股関節周辺の痛みやしびれを訴える方もいます。患者さんによって訴える症状に違いが出るのは、圧迫されている神経の部位が異なるためです。脊柱管狭窄症は、圧迫される神経の部位によって、一般的に「神経根型」「馬尾型」「混合型」の3つに分けられます。

 神経根は、脊髄の末端から左右に枝分かれした神経の根もとのことです。神経根が脊柱管の狭窄によって圧迫されるタイプを神経根型といいます。神経根は背骨の左右に1つずつあり、通常は左右どちらかの神経根が障害を受け、症状も左右どちらかの足腰に出るのが特徴です。

 馬尾は、脊髄にある末端の神経の束のことで、腰椎部の脊柱管の中に存在します。馬尾が脊柱管の狭窄によって圧迫されるタイプを馬尾型といいます。馬尾が圧迫されると、馬尾とつながっている左右の下肢全体の神経に影響が出るため、左右両方の下肢の痛みやしびれが広範囲に及び、間欠性跛行が現れるのが特徴です。

 神経根型と馬尾型が合わさったタイプを混合型といいます。2つのタイプが合わさっているため、症状も馬尾型と神経根型の2つの特徴を持っています。

 脊柱管狭窄症は、ゆっくりと進行していきます。歩いているときだけではなく、立っているだけ、あおむけに寝ているだけでも、痛みやしびれがひどくなります。腰を反らすと痛みが悪化し、前かがみになったり、イスに腰かけたり、横向きになって体を丸めて寝たりすると、痛みは軽くなります。背中を後ろに反らすと脊柱管がさらに狭くなって神経への圧迫が強まり、腰を丸めると脊柱管が広がって圧迫が緩むためです。

 ただし、神経が圧迫されれば、前かがみの姿勢でも痛みやしびれが出ることもあります。そのようなときは、痛みが出る姿勢や動作を避けるようにしましょう。

脊柱管狭窄症の症状は足腰の痛み・しびれや知覚異常、排便・排尿障害など多岐にわたる

腰部脊柱管狭窄症が原因で起こる症状

 脊柱管狭窄症がさらに進行すると、足の感覚が鈍くなる感覚障害や、足の筋力が低下する運動マヒが見られるようになります。また、膀胱や直腸の機能や感覚に関係する神経に障害が起こるケースもまれにあります。排尿や排便がうまくコントロールできなくなったり、肛門の周辺にしびれや灼熱感を覚えたりするようになるのです。次に、脊柱管狭窄症の患者さんが訴える主な自覚症状をご紹介しましょう。

● 腰痛
 脊柱管狭窄症の患者さんの半数以上が腰痛を訴えます。椎間板ヘルニアでは安静時でも痛みがあるのに対して、脊柱管狭窄症では立ったり歩いたりする動作時に痛みが悪化し、安静時には軽減するのが特徴です。
● 下肢痛
 腰痛に次いで多い症状が下肢痛です。痛みを感じる部分は、圧迫されている神経の部位によって、太ももの前側や股関節、ひざの上に症状が出たり、太ももやひざの裏側、ふくらはぎに痛みが出たりします。
● 足のしびれ・知覚異常
 お尻から太ももの裏側、足先にかけて、しびれるような感覚が生じることも少なくありません。その他、冷感や灼熱感、引きつり感、締めつけ感など、さまざまな知覚異常が出る場合があります。足裏がジリジリする、足裏の皮膚が厚くなったように感じるなども知覚異常の1つと考えられます。
● 下肢の脱力感
 脊柱管狭窄症の患者さんの約半数に下肢の脱力感が見られると報告されています。具体的には「足に力が入らない」「かかとを上げられない」「階段や段差などでつまずく」「スリッパがすぐ脱げる」などの症状です。下肢の脱力感は、動作時だけではなく、午後や夕方に強まるのも特徴です。
● その他
 馬尾には膀胱・尿道・直腸・肛門につながる神経の出発点があるため、重症例では下肢のマヒが進行して歩行時に尿や便を漏らす排尿・排便障害が見られることがあります。尿を出しづらくなる尿閉や残尿感、歩行時などの失禁や頻尿、便秘などです。男性では、間欠性跛行と同時に痛みを伴う陰茎勃起(間質性勃起)が起こることもあります。

 脊柱管狭窄症は、年齢を重ねれば誰にでも起こる可能性がある老化現象の1つです。足腰の痛みやしびれなど、さまざまな症状の悪化を防ぐため、老化予防に努める必要があります。例えば、喫煙は血流を悪化させるため、禁煙することをおすすめします。また、太りすぎや中腰などの姿勢は腰に負担をかけてしまいます。適正体重を維持するとともに、腰に負担をかける姿勢や動作を避けるようにしましょう。