早期認知機能の低下を評価する有効な血液バイオマーカーの発見

筑波大学

国立大学法人筑波大と株式会社MCBIの研究グループは、アルツハイマー病等、認知症の発症に関わるアミロイドβタンパク質(以下Aβ)の脳内からの排出に働く3つのタンパク質が、早期の認知機能低下を評価するバイオマーカーとして有効であることを見出しました。アルツハイマー病の発症には、脳内に蓄積されたAβが関わっていることがわかっています。

世界のアルツハイマー病の現状

2015年の世界の認知症の患者数は4,680万人で、このまま何もしなければ高齢化社会の進行とともにその数は20年ごとに倍になり、2030年には7,470万人、2050年には1億3,150万人になるといわれています。
認知症の60-80%はアルツハイマー型認知症です。国際的に権威のある「Alzheimer’s Association」による報告書「2018 Facts and Figures」にて、米国では2017年現在1600万人の家族・介護者が180億時間を認知症のケアに割いており、そのコストは2,320億ドル(約2兆5千億円)と推計されています。アルツハイマー病は、認知症の60-80%を占め、ゆっくりと進む認知障害が特徴です。
Aβの脳内での蓄積はアルツハイマー病の発症に関わることが分かっていますが、正常な状態でもAβは常に脳内で産生されており、脳から血液へと排出されています。

アルツハイマー病では、Aβクリアランスの低下が発症の原因ではないかと考えられています。Aβクリアランスには3つのタンパク質(アポリポタンパク質、トランスサイレチン、補体タンパク質)が関与しており、これらの量の低下がAβクリアランスの低下につながります。

Aβクリアランスに関わるタンパク質の臨床有用性を検討

本研究では、軽度認知障害のバイオマーカーとして、Aβクリアランスに関わるタンパク質アポリポタンパク質、トランスサイレチン、補体タンパク質の臨床有用性を検討しました。

273名の被験者を対象に、血清中のアポリポタンパク質、トランスサイレチン、補体タンパク質およびコレステロール量を測定し、その中で軽度認知障害およびアルツハイマー病と診断された63名の被験者を対象にMRIおよびSPECT脳画像を検査しました。

アポリポタンパク質、トランスサイレチンおよび、補体タンパク質の比は、認知機能健常者と軽度認知障害との間で有意に差が見られ、これら3つのタンパク質を組み合わせたときの判別精度は約90%でした。
MRI検査による海馬の萎縮は、アポリポタンパク質およびコレステロールの量の低下と一致しました。
SPECT検査による脳血流量の減少は、補体タンパク質、アポリポタンパク質、コレステロールおよび総コレステロール量と相関しました。さらに、アルツハイマー病の患者の剖検脳を調べ、補体タンパク質タンパク質の有意な変化を明らかにしました。
このことから、これらのタンパク質が認知機能低下を評価する上で、有効なバイオマーカーとなることが明らかとなりました。

本研究における今後の認知症予防への期待

認知症の前駆段階である軽度認知障害は認知症の発症を予防する潜在的介入のための重要な機会と考えられます。このため、血液バイオマーカーによって認知機能低下の評価を行うことは、アルツハイマー病など認知症の予防において重要であると考えられます。

本研究に用いた3つのタンパク質を対象とする、軽度認知障害スクリーニング検査は、株式会社MCBIがすでに実用化しており、今回の研究で早期軽度認知障害の認知機能低下とそれに伴う脳血流低下や脳萎縮と関連することが明らかになったことで、認知症の予防につながる血液検査として期待されます。

今後、より多くの症例を用いた臨床研究を行うとともに、運動などの予介入による効果と血液バイオマーカーの関連性について研究を進める予定です。