自分の足で立ちつづけるためにトレーニングは欠かせません

俳優
加藤雅也

ファッションモデルから俳優の道に進み、日本アカデミー賞新人俳優賞や日本映画批評家大賞主演男優賞などを受賞し、映画やテレビドラマ、舞台などで大活躍する俳優の加藤雅也さん。俳優の枠を超え、レギュラーのラジオ番組やファンクラブに向けた『月刊雅也』など、独自の切り口で情報発信している加藤さんに、いままでの歩みを伺いました。

スカウトがきっかけでモデルという未知の世界に足を踏み入れました

[かとう・まさや]

1963年、奈良県生まれ。『メンズノンノ』創刊号のファッションモデルを務めた後、俳優の道に進む。1988年、映画『マリリンに逢いたい』に主演し、第12回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。日豪合作映画『クライムブローカー』『セブンスフロア』に主演、フランス制作映画『クライング・フリーマン』に出演後、1995年に渡米。主な出演テレビドラマは『義経』『anego』『アンフェア』『坂の上の雲』『カンナさーん!』など。主な出演映画は『外科室』『帝都大戦』『BROTHER』など。

 子どもの頃から体を動かすのが大好きで、中学校時代に陸上競技を始めてからは、いっそう体作りやコンディショニングを意識するようになりました。

 僕は100㍍が専門の競技種目だったのですが、何ヵ月も練習を積んで臨んでも、10秒ちょっとで終わってしまう世界です。だからこそ、その瞬間に最大限の力を発揮できるよう、繊細な体調管理が求められるわけです。この経験がいまの役者の仕事にも生かされていると感じています。映画にしても舞台にしても、もし体調不良で降板するようなことがあれば、関係者の皆さんに多大な迷惑をかけてしまいます。自己管理はこの仕事の生命線といっていいでしょう。

 ただ、まさか自分がこうして映画やドラマの仕事をするようになるとは、学生時代は夢にも思っていませんでした。もともと人に何かを教えることが得意だったので、仕事は学校の先生かスポーツトレーナーに就くと思っていたんです。そのため、大学では教員免許を取得しました。これは世の中にどんな仕事が存在するのか、選択肢をあまり知らなかったことも大きいですね。夢を見ようにも、具体的に思い浮かべることができなかったんです。

 そんなある日、知人の紹介で「ファッションモデルをやってみないか?」と声がかかったのが、最初のきっかけでした。モデルという職業が存在することは漠然と理解していたものの、自分にとって未知の世界。でも、かえって好奇心をかき立てられました。

 実際にモデルの世界に足を踏み入れてみると、スポーツとはまったく異なる環境でした。流行などの時代性といった外的要因に大きく左右される、難しい仕事であることを痛感しました。

 例えば、陸上競技の場合、自分に実力さえ備わっていれば、いい記録も出せるし、インターハイのような大会へ進むこともできます。ところが、ファッションモデルというのは流行などの時代性もあるし、なにより他人に評価されなければ上へ行けない〝他力本願〟の世界です。どれだけ歌や演技がうまかろうが、ファンが増えなければ仕事にならない。これが僕にはたまらなくおもしろかったんです。

 そんな中、僕が演技の世界に足を踏み入れることになったのは、関係者の方からいわれたこんな言葉がきっかけでした。

名家の当主という新たな役柄を演じる加藤さん

 「おまえはただ立っているときよりも、動いているときのほうが絵になるな」

 動きを伴う次の表現の道へ進むのもおもしろいかもしれない。そう感じた僕は、俳優への転向を決意します。これまでとは対照的に、身長や体形、顔にかかわらず、あらゆるルックスの人が勝負できる俳優の世界では、純粋に実力が試されます。自分なりに3年、5年、7年と節目を設け、そのときにさらに上へ行ける可能性を感じなかったらすぐにやめようと決意してがむしゃらに演技の勉強を重ねてきました。

 幸いにして、俳優になった初期の頃から主演映画の話がいくつも舞い込むなど、仕事は順調でした。むしろ、演技の世界ではまだ新人である自分の実力が世間の評価に見合っているのかと、不安になったほどです。そんな内心で感じるギャップを埋めるために必死で取り組み、一つひとつ実績を重ね、気がつけば今日に至ります。

映画『二階堂家物語』では名家の当主という初めての役柄を演じました

『二階堂家物語』
1月25日(金)より新宿ピカデリー他にて全国順次公開
監督:アイダ・パナハンデ
脚本:アイダ・パナハンデ、アーサラン・アミリ
エグゼクティブ・プロデューサー:河瀨直美
出演:加藤雅也、石橋静河、町田啓太、田中要次
配給:HIGH BROW CINEMA
写真提供:2018『二階堂家物語』 LDH JAPAN, Emperor Film Production Company Limited, Nara International Film Festival

 映画を1本撮り終えるというのは、やはり重労働です。だから、体作りはいまも怠りません。ただ、重要なのは逆三角形の肉体に鍛え上げることではなく、最後まで自分の足で立ちつづけること。これが究極の目標でしょう。そのために大切なのは、年齢に応じて適度な負荷のトレーニングを心がけることだと思っています。

 自分の足で舞台に立ちつづけるためのトレーニングとして、水泳や格闘技など、さまざまな競技を取り入れてきました。

 少し変わったところでは、居合のけいこも経験しています。これは心身の鍛錬はもちろん、日本人の心を学ぶこと、そして居合術を身につけることで演技の幅を広げたいという目的がありました。実際に刀を振るというのが、どのような感覚なのか――何事も〝実〟を知ってこそ、リアルな〝虚〟を創り出すことができるというのが僕の考えです。居合は健康管理と演技の両方に通ずるトレーニングといえるでしょう。

 まもなく公開される『二階堂家物語』も、日本の心が存分に表現された作品です。僕は主役を務めさせていただきました。

 イラン人の若手女性監督による、奈良の名家の跡継ぎ問題を描いた物語で、僕はその当主。まず、これがおもしろいですよね。どちらかというとやんちゃな役が多い加藤雅也という役者に当主という役柄を与えるのは、たぶん日本人の監督にはない発想でしょう。個人的にも新鮮でやりがいのある仕事でした。

 『二階堂家物語』は僕の生まれ故郷である奈良県を舞台とした映画で、撮影中はふと幼少期を思い出すことがしばしばありました。あらためて気づかされたのは、緑の彩色が豊かな自然の風景でした。

 東京都にももちろん緑はありますが、植林されたものであるせいか、同じ種類の緑ばかりでどこか単調に見えてしまいます。しかし、奈良県の緑はバリエーションが豊富で、自然が織りなす本来の緑の色なんです。東京では味わうことのできない風景に子どもの頃から慣れ親しめたのは、一つの財産なのでしょうね。日本人であればきっと、『二階堂家物語』の世界観が自然と心に入ってくるのではないかと思います。ぜひ、多くの方に劇場でお楽しみいただきたいですね。