赤ちゃんの脳障害・新生児低酸素性虚血性脳症の早期診断

 出生時に起きる赤ちゃんの脳疾患のなかでも最も多い、新生児低酸素性虚血性脳症の早期発見を可能とする有効なバイオマーカーが、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターの研究グループにより発見されました。「新生児低酸素性虚血性脳症」は、母体内または分娩中に、新生児の脳への酸素供給や血流が滞り発生する脳障害です。

国立精神・神経医療研究センター

従来の研究

 これまでの研究では、この障害は脳内でLOX-1という分子が増加し、低体温療法を行うことで減少することが明らかとなっており、抗LOX-1中和抗体による治療効果が確認されていました。さらなる研究により、LOX-1の血液に出る成分「sLOX-1」の値が新生児低酸素性虚血性脳症の赤ちゃんで高いことが判明し、重症度と1カ月後の後遺症の予測も可能であると分かりました。この発見の結果から、適切な治療の選択と医療機関の有効利用が可能になると予想されました。予後予測の治療に適切な選択がされれば、退院後の診療早期対応にも新たな道が開拓されると考えられました。

新たな治療法の希求

 生後間もない新生児が、呼吸、循環、中枢神経系の不全に陥る新生児仮死に続いて起こる新生児低酸素性虚血性脳症は、赤ちゃんに脳障害を起こす疾患です。発生頻度0.25%で、そのうち30%が死亡や重篤な後遺症を残すと考えられています。治療法としては低体温療法が行なわれますが、施設には高度な設備が必要です。しかし、低体温療法は科学的根拠もなく有効な症例の選別も困難なものです。そこで、科学的根拠に基づいた新たな治療、治療適用基準の確立、予後予測の方法開発が必要とされ、現在はできるだけ早く診断して専門医療施設での低体温療法が必要とされる状況にあります。早期診断・発見のため、赤ちゃんが生まれる時にLOX-1の血液中に現れるsLOX-1を測定し、重症度の解明が試みられたのです。

対象となる新生児

 対象となる新生児は、在胎36週以上かつ出生体重1800g以上として、新生児低酸素性虚血性脳症と診断された赤ちゃん27例と、診断されなかった赤ちゃん45例でした。新生児低酸素性虚血性脳症の重症度は、米国国立衛生研究所の診断基準に基づき、Sarnat分類によって軽度、中等度、重度に分けられました。中等度と重度の新生児低酸素性虚血性脳症が、低体温療法の対象となります。

まとめ

 全72例の成熟児の生後6時間以内のsLOX-1を測定したところ、新生児低酸素性虚血性脳症27例の赤ちゃんの場合、軽度6、中等度16、重度5となりました。重症度が上がるほどsLOX-1値も高くなり、sLOX-1値を550pg/ml以上とした場合、特異度83%、陽性的中率94%と算出されました。これらの結果から、血液のsLOX-1を測定することにより、高確率で重症度が分かることが明らかとなり、新生児医療にまだ不慣れな医師ですら、専門医療施設の治療が必要か用意に判断できるといった可能性も示されました。これらの結果から、新生児低酸素性虚血性脳症の重症度診断が容易になり、治療の適切な選択と医療機関の有効利用が示唆されました。早期診断・発見への期待が高まることとなったのです。