胃ガン治療に新たな可能性、胃ガン発生を促進するmicroRNAの特定に成功

 金沢大学ナノ生命科学研究所の研究グループは、胃ガンの発生を促進するmicroRNAの特定に成功しました。

 日本人で罹患率の高い胃ガンには、ヘリコバクター・ピロリ菌と呼ばれる、胃ガン発生の重要な危険因子細菌の感染が関わっていることが知られています。しかし、感染がどのように胃ガンの発生を促進するのかは、よく分かっていません。

日本医療研究開発機構

ヘリコバクター・ピロリ菌は胃ガン発生過程にmicroRNAが関与の可能性

 胃ガンは、日本を含むアジア地域に多いガンで、ヘリコバクター・ピロリ菌感染が関与していることが知られています。

 現在、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌が胃ガンの予防に有効と考えられていますが、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染が発ガンを促進する分子機構については明らかにされていません。

 一方で、microRNAと呼ばれる20から25の塩基で構成される小さなRNA分子は、さまざまな遺伝子のメッセンジャーRNAを分解することで、標的遺伝子の発現を抑制する分子群です。

 最近の研究では、microRNAが発ガンにも関与することが明らかになってきています。

 以上の研究背景から、本研究グループでは胃炎および胃ガンを自然発症するマウスモデルを用いて、ヘリコバクター・ピロリ菌感染による胃ガン発生過程に、microRNAが関与する可能性について研究を行いました。

Ganマウスを使ったmicroRNA関与の研究

 本研究グループでは、顕微鏡下でレーザーにより組織を構成する細胞を分離して採取するレーザーマイクロダイセクション装置を使い、金沢大学で開発された胃ガンマウスモデル「Ganマウス」の胃ガン組織から、腫瘍細胞とそれ以外の間質細胞 と呼ばれる、ガン組織を構成する、ガン細胞周囲の細胞を分離して採取し、腫瘍細胞だけで発現が変化するmicroRNAをマイクロアレイによって探索し、候補分子を明らかにしました。

その中から、ヒト胃ガン組織で最も顕著に発現が亢進しているmicroRNAとして、miR-135bを特定しました。

miR-135bが胃ガンにもたらす影響

 さらに、miR-135bの発現は、ヘリコバクター・ピロリ菌の類縁種である、ヘリコバクター・フェリス菌を感染させたマウス胃炎組織でも強く誘導されることが確認されました。

 その分子機構として、感染が引き起こす胃炎組織では、活性化した間質細胞がサイトカイン分子のインターロイキン1を産生し、それが胃粘膜上皮細胞を直接刺激してmiR-135bの産生を誘導することを明らかにしました。

 また、miR-135bを強く発現する胃ガン細胞が、miR-135bを細胞外に分泌する現象も認めました。感染により胃炎を起こすと、胃粘膜上皮細胞の増殖が亢進して粘膜が肥厚しますが、重要なことに、慢性胃炎を起こしたマウスモデルにおいて、miR-135b遺伝子を欠損させると、胃粘膜上皮細胞の増殖が顕著に抑制されて粘膜の肥厚が抑えられることを明らかにしました。

 すなわち、炎症反応で発現誘導するmiR-135bは、胃ガン細胞だけでなく、前ガン状態の胃粘膜上皮細胞の増殖を促進する作用により、胃ガンの発生を促進すると考えられます。miR-135bが標的として発現を制御する遺伝子を探索した結果、FOXN3とRECKが重要な候補であることが分かりました。これらの遺伝子の発現抑制がどのように発ガンに関与するかを解明することは、今後の課題になります。

 以上の結果から、miR-135bは胃ガンの早期発見マーカーとなる可能性とともに、胃ガンの予防・治療標的分子となる可能性が期待されます。

本研究から見る今後の胃ガン治療研究の展開

 本研究により、ヘリコバクター・ピロリ菌感染が引き起こす慢性炎症反応が、miR-135bを誘導して胃ガン発生を促進することが明らかになりました。今後の研究により、miR-135bを直接標的とした胃ガンの診断、および予防治療法の開発を目指した研究が展開されます。

 さらに、miR-135bが標的とするFOXN3やRECKに関する研究が進展することにより、胃ガンの詳細な発生・悪性化機構の解明につながることが期待されます。