胃がんの悪性度が増すメカニズムの解明

東京医科歯科大学

未だ解明されていない胃がん悪性化のメカニズム

 DNAに結合するたんぱく質として知られているヒストンは、長いDNA分子を折りたたんで核内に収納する役割を持っています。胃がんにおけるDNAメチル化やヒストンリジンメチル化・アセチル化の解析はこれまで多くの研究がなされてきましたが、アルギニンメチル化を指標としたヒストン変化の解析はまだ行われておりません。

 また、ヒストン修飾の異常はがん・生活習慣病などの多くの疾患の発生において重要な因子となっています。ヒストンのアルギニン残基のメチル化修飾も遺伝子発現に関わる変化として知られています。アルギニンは、アルギニンメチル化酵素ファミリーによって、モノメチル化および対称性・非対称性にジメチル化され、転写活性に影響します。アルギニンメチル化酵素ファミリーは複数存在しており、悪性腫瘍においても異常が報告されていますが、その分子メカニズムはよくわかっていません。

胃がんの悪性度に深く関与しているヒストンのアルギニン残基の非対称性ジメチル化レベル

 臨床的には、ヒストンの高アルギニンの非対称性メチル化レベルは胃がんの独立した予後因子であり、さらにアルギニンメチル化酵素ファミリーの発現が強い胃がんは再発しやすく死亡する割合が高いことを見出しました。ヒト胃がん細胞を用いて、アルギニンメチル化酵素ファミリー安定発現細胞株を作成したところ、ヒストンのアルギニン非対称性メチル化レベルが亢進し、腫瘍細胞の遊走能や浸潤能が亢進しました。一方、ゲノム編集法を用いてヒト胃がん細胞でアルギニンメチル化酵素ファミリーをノックアウトすると、ヒストンのアルギニンの非対称性メチル化レベルが減弱し、腫瘍の増殖能、遊走能、浸潤能および造腫瘍能も低下しました。

期待されるアルギニンメチル化酵素異常を標的とした新規治療法開発

 胃がんにおいて、ヒストンのアルギニン非対称性メチル化レベルはアルギニンメチル化酵素発現と正に相関すること、また予後予測のバイオマーカーになる可能性があることを示唆しました。アルギニンメチル化酵素-アルギニン非対称性メチル化経路により、がん抑制遺伝子は不活化されます。アルギニンメチル化酵素異常を抑えることで腫瘍の悪性度や造腫瘍性が低下したことは新規治療法の礎になると期待できます。