インフルエンザの重症化に神経ペプチドが関連していることが判明

 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)ワクチン・アジュバント研究センター(CVAR)感染病態制御ワクチンプロジェクトの、今井由美子プロジェクトリーダー(クロス・アポイントメント:大阪大学蛋白質研究所感染病態システム研究室特任教授)らの研究グループは、同研究所細胞システム研究室、岡田眞里子教授らとの共同研究で、通常交感神経終末から放出されることが知られている、神経ペプチドNPYが、インフルエンザウイルス感染症では、肺の貪食細胞から大量に産生されることを見出しました。また、神経ペプチドNPYと、その受容体Y1Rを貪食細胞で欠損させると、インフルエンザの重症化が抑えられることがわかりました。

そのメカニズムとして、ウイルス感染によって神経ペプチドNPY-Y1R軸が活性化されると、サイトカインのネガティブフィードバック因子であるSOCS3の誘導を介して、ウイルス増殖の亢進と肺組織の過剰炎症が誘導され、インフルエンザが重症化することがわかりました。本研究の成果は、インフルエンザの重症化の予防や重症インフルエンザの新しい治療法の開発につながることが期待されます。

大阪大学 蛋白質研究所

不明だった神経ペプチドNPYとインフルエンザの関わり

神経系と免疫系が相互に連関していることは知られていましたが、神経ペプチドNPYがインフルエンザウイルス感染症の病態にどのように関わっているかは、十分解明されていませんでした。神経ペプチドNPYは肥満、糖尿病、喘息などの病態に関わっていることは知られています。また、神経ペプチドNPYの受容体阻害薬は抗肥満薬として開発が進められています。

しかしながら、神経ペプチドNPYとその受容体がインフルエンザの重症化にどのように関わっているかは不明でした。一方、免疫応答など生体の恒常性の維持に必須のサイトカインのネガティブフィードバック因子であるSOCS3は強毒型のH5N1インフルエンザウイルス感染症やエボラ出血熱などの病態に関わっていることは報告されていましたが、神経ペプチドNPYとの関わりは不明でした。

緑色蛍光タンパク質蛍光を発現するマウスを用いての実験

 今回、研究グループは、重症インフルエンザウイルス感染症に罹患した神経ペプチドNPY遺伝子が活性化すると緑色蛍光タンパク質(GFP)蛍光を発現するマウスを使って、インフルエンザウイルスの感染に伴って肺の貪食細胞から神経ペプチドNPYが大量に産生されることを見出しました。また神経ペプチドNPYとその受容体を貪食細胞で欠損させたマウスはインフルエンザの重症化が抑えられ、感染後の生存率が改善することがわかりました。

そのメカニズムとして、ウイルス感染によって神経ペプチドNPYと、その受容体Y1R軸が活性化されると、サイトカインのネガティブフィードバック因子であるSOCS3の誘導を介して、ウイルス増殖の亢進と肺組織の過剰炎症が誘導され、インフルエンザが重症化することがわかりました。従って、貪食細胞における神経ペプチドNPY-Y1R-SOCS3経路は重症インフルエンザの新しい治療標的となる可能性が考えられました。また、神経ペプチドNPYはインフルエンザの重症化のバイオマーカーとして有用であると思われ、これを指標にインフルエンザの重症化が予測される患者に対して重症化を阻止するような予防医療の確立に繋がる可能性が示唆されました。

本研究結果から期待されること

 神経ペプチドNPYと、その受容体軸は重症インフルエンザの新しい治療標的となる可能性が示唆され、また神経ペプチドNPYは、インフルエンザの重症化のバイオマーカーとして有用であると考えられ、これを指標に、重症化が予測される患者に対する先制医療の開発につながることが期待されます。