アトピーの新しい治療戦略へ、ヒト表皮細胞の分化と皮膚バリア機能の調節機構を解明

京都大学

 京都大学とトロント大学の研究グループは、ヒト表皮細胞において、皮膚バリア機能・保湿機能を担う、重要なタンパク質である「フィラグリン」の発現を誘導する内因性物質として、生理活性脂質である「リゾホスファチジン酸」を同定しました。

 また、網羅的遺伝子発現解析を行い、リゾホスファチジン酸は、フィラグリン遺伝子を含む皮膚バリア機能に重要な役割を果たす一群の遺伝子の発現を広範に誘導すること、この作用は、Rho-Rock-SRFシグナル伝達経路を介することを明らかにしました。

 さらに、皮膚バリア機能低下のモデルマウスを用いて、リゾホスファチジン酸がフィラグリンの発現上昇により皮膚バリア機能・保湿機能を改善することを確認しました。

 これらの結果は、アトピー性皮膚炎に代表される皮膚バリア機能低下を呈する病態の治療開発に応用できることが期待されます。

Gタンパク質共役受容体アレイを用いた網羅的スクリーニング

 研究グループは最初に、ヒト新生児皮膚から採取した表皮細胞を用いて、フィラグリン遺伝子発現誘導を安定的に定量できる実験条件を確立しました。次に、フィラグリン遺伝子発現に関与する内因性物質の探索を行うため、「Gタンパク質共役受容体アレイ」を用いた、細胞内シグナル伝達に関与する受容体遺伝子発現の網羅的スクリーニングを行いました。

 その結果、ヒト角化細胞に高発現する、Gタンパク共役型受容体を同定し、そのうちの一つである「EDG2/LPAR1受容体」のリガンド特定の受容体に特異的に結合する物質である、「リゾホスファチジン酸」に濃度依存的なフィラグリン遺伝子発現誘導活性を見出しました。リゾホスファチジン酸は、内在性の生理活性脂質であり、全身で産生され、様々な生物学的活性を持つことが報告されていますが、生体の皮膚における機能に関しては、リゾホスファチジン酸受容体の一つである、「リゾホスファチジン酸R6」を介した発毛促進機能以外は、ほとんど不明でした。リゾホスファチジン酸受容体は、この他にもリゾホスファチジン酸R1〜5の合計6種類が同定されていますが、表皮細胞におけるフィラグリン発現に関与するリゾホスファチジン酸受容体は明らかではありませんでした。

 そこで研究グループは、各種リゾホスファチジン酸受容体の、特異的アゴニスト受容体と結合して、細胞を活性化させる作動薬・刺激薬、アンタゴニスト受容体と結合しても、細胞を活性化させない拮抗薬・遮断薬、さらに、RNAiによる発現ノックダウンの手法を用いて、リゾホスファチジン酸R1と、リゾホスファチジン酸R5、2種類の受容体がヒト表皮細胞における、リゾホスファチジン酸依存性のフィラグリン発現誘導に不可欠であることを見出しました。これら受容体には、G12/13タンパクが共役して下流のRho-ROCK-SRFシグナル伝達経路を介して、フィラグリン発現誘導を行うことも合わせて確認しました。

 さらに、ヒト表皮細胞における、リゾホスファチジン酸の機能を明らかにするため、マイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現解析を行った結果、リゾホスファチジン酸には、ヒト表皮細胞の分化を促進する、遺伝子群を広範に誘導する作用があることが明らかになりました。

マウスを用いた皮膚バリア機能の改善の可否実験

 最後に、皮膚バリア機能の低下した状態において、リゾホスファチジン酸がフィラグリンをはじめとする、角質細胞分化促進因子を誘導して、バリア機能の改善を行うことができるかどうかを、マウスの皮膚バリア機能低下モデルを用いて検証しました。この結果、リゾホスファチジン酸を皮膚に塗布することにより皮膚保湿機能が改善され、バリア機能が向上することが示唆されました。

今回の研究結果から期待されること

 今回の研究結果から、リゾホスファチジン酸の機能として、新たに皮膚バリア機能亢進作用があることが示されました。これは、アトピー性皮膚炎に代表される皮膚バリア機能低下を呈する病態の治療開発に応用できることが期待されます。今回の研究では、リゾホスファチジン酸の作用はフィラグリン及び皮膚バリア機能関連分子群の発現を強力に誘導し、炎症によって障害を受けた皮膚バリア機能を改善させることがわかりました。

 リゾホスファチジン酸は、内在性の生理活性脂質であることから、アトピー性皮膚炎その他、乾癬も含めた皮膚のバリア機能低下を呈する疾患において、副作用の少ないより効果的な治療戦略となる可能性があります。

 各種病態において、リゾホスファチジン酸とその下流のシグナル伝達経路が、どのように変化しているかを今後詳細に解析することにより、今回の研究成果が、皮膚疾患における新たな治療法の開発の糸口となることを期待しています。