脊柱管狭窄症が進行すると 連続歩行が困難になり神経の マヒや排尿・排便障害も起こる

埼玉医科大学総合医療センター整形外科教授
税田和夫

腰部脊柱管狭窄症で起こる間欠性跛行は血流悪化と全身の酸素不足により発症

[さいた・かずお]

1986年、東京大学医学部卒業。医学博士。自治医科大学整形外科講師、同大学附属さいたま医療センター整形外科講師・准教授を経て、2015年4月より現職。日本整形外科学会専門医、日本脊椎脊髄病学会指導医。

 腰痛の約85%は「非特異的腰痛」であり、画像検査をしても正確な原因を特定できないという論文があります。2012年の腰痛診療ガイドラインでも危険な徴候がない場合、レントゲンやMRI(磁気共鳴断層撮影装置)などの画像検査を積極的にはすすめていません。

 腰痛を訴える患者さんに対する画像検査の主な目的は、緊急に治療を必要とする問題を見つけ出すことにあります。具体的には、腰の感染症や腫瘍、マヒの可能性がある場合です。長期間発熱していたり、痛みやしびれが日に日に悪化したりする場合は、できるだけ早く医療機関を受診する必要があります。

 足腰に痛みやしびれを引き起こす疾患の中で、高齢化に伴って増加している病気の1つが、腰部脊柱管狭窄症(以下、脊柱管狭窄症と略す)です。背骨には神経の通り道である「脊柱管」と呼ばれる管があります。長い年月の間、背骨が体を支えつづけていると加齢によって変形し、脊柱管が狭くなっていきます。腰椎部(背骨の腰の部分)の脊柱管が狭くなった状態が脊柱管狭窄症です。

神経性跛行と血管性跛行の見分け方は、休息時の姿勢で判別できる。神経性跛行は前にかがむことで、血管性跛行は止まって休むと症状が改善する

 脊柱管狭窄症は、初期にはほとんど症状が現れません。脊柱管が少しずつ狭くなり、神経や血管が圧迫されることで、ようやく足腰の痛みやしびれとして症状が現れます。脊柱管狭窄症の特徴的な症状に、間欠性跛行があります。

 間欠性跛行は、歩いたり立ったりしていると、足腰に痛みやしびれ、脱力感などが生じる症状です。脊柱管狭窄症が悪化すると、間欠性跛行のために歩ける距離がしだいに短くなり、日常生活が制限されたり、活動量が低下して足腰がさらに弱まったりします。

脊柱管狭窄症が進行すると足腰の痛み・しびれの他脱力感を生じる

 では、なぜ間欠性跛行が起こるのでしょうか。歩行時には、全身で酸素が必要になります。呼吸によって体内に取り込まれた酸素は、血流に乗って全身に届けられます。ところが、脊柱管狭窄症が起こると、脊柱管内の血管が圧迫されてしまいます。すると、患部の血流が悪くなって酸素が末端の神経組織にまで届かなくなり、足腰の痛みやしびれが生じるのです。

背骨(脊柱)は椎骨が積み重なってできている。椎骨の中央にある空洞部分はつながっていて、トンネルのような細長い管になっている。この管が「脊柱管」と呼ばれる部分で、神経の通り道になっている

 間欠性跛行の症状を緩和するには、前かがみの姿勢で休むことが有効です。前かがみの姿勢をとると、脊柱管が広がって血流が改善します。さらに、休むことで全身の酸素の消費が減り、神経組織に酸素が十分に行き渡って足腰の痛みやしびれが軽くなるのです。

 間欠性跛行には、脊柱管狭窄症などにより引き起こされる「神経性」のものだけではなく、下肢閉塞性動脈硬化症(足の血管の動脈硬化)による「血管性」のものもあります。下肢閉塞性動脈硬化症の場合、前かがみになっても痛みやしびれが軽くならないという特徴があります。

 下肢閉塞性動脈硬化症は、高血圧や糖尿病など、高齢者のかかりやすい病気に関わることが多く、全身の血管に動脈硬化(血管の老化)が起こっている可能性があります。脊柱管狭窄症と下肢閉塞性動脈硬化症では、専門とする医療機関が異なります。間欠性跛行のある場合は、検査を受けて原因を明らかにすることが重要です。

 脊柱管狭窄症が進行すると、歩行時以外でも足腰の痛みやしびれなどが起こるようになります。さらに、下肢の脱力感や排尿・排便障害も起こるようになるのです。脊柱管狭窄症の患者さんが訴える自覚症状には、次のようなものがあります。

● 腰痛
 腰痛は、脊柱管狭窄症の患者さんの半数以上が訴える症状です。腰椎椎間板ヘルニア(以下、椎間板ヘルニア)では安静時でも痛みがありますが、脊柱管狭窄症では立ったり歩いたりといった動作時に痛みが強くなり、安静時には軽減する特徴があります。

 通常、上体を後ろに反らしたときに足腰に痛みが出る場合は脊柱管狭窄症、前かがみになったときに痛みが出る場合は椎間板ヘルニアと診断されます。ただし、中には脊柱管狭窄症と椎間板ヘルニアを合併しているケースもあります。そのような場合は、上体を後ろに反らしても前かがみになっても痛みを感じるという特徴があります。

腰部脊柱管狭窄症が原因で起こる症状

● 下肢痛・足のしびれ・知覚異常
 腰痛に次いで多いのが、下肢に感じる痛みです。太ももの前側や股関節、ひざの上や裏側、ふくらはぎなど、痛む部位はさまざまです。

 お尻から太ももの裏側、足先にかけて広い範囲で、しびれるような感覚が生じることもあります。冷感や灼熱感(チリチリと焼けるような感じ)、引きつり感、締めつけ感など、さまざまな知覚異常が出る場合があります。また、足裏がジリジリしたり、足裏の皮膚が厚くなったような感じがしたりすることもあります。

● 足腰の脱力感
「足に力が入らない」「かかとが持ち上がらない」「階段や段差などでよくつまずく」「スリッパがよく脱げる」などの症状です。足腰の脱力感は、疲れがたまる午後や夕方に起こりやすい特徴があります。

脊柱管狭窄症が重症化するとまれに頻尿や便秘などの排尿・排便障害を起こす

腰部脊柱管狭窄症の人は、体を反らすと椎間板が神経を圧迫しやすくなり痛みが出る。前かがみになると神経への圧迫が緩み、痛みが軽くなる

 基本的に脊柱管狭窄症は老化現象の1種であり、急変したり手遅れになったりするものではありません。病気ではなく、加齢による自然の変化と捉えて、じっくりと向き合っていくことが大切です。

 しかし、脊柱管狭窄症が重症化したり、椎間板ヘルニアを合併したりすると、まれではあるものの膀胱・尿道・直腸・肛門につながる神経に異常が生じ、排尿障害や排便障害を起こすことがあります。

 尿が出づらくなる尿閉や残尿感、歩行時などの失禁や頻尿、便秘などが生じます。男性では、痛みを伴う「陰茎勃起」を起こすことがあります。該当する症状があるという方は、できるだけ早く整形外科で診察を受けるようにしてください。