国立大学が実験で証明!適度な運動による刺激で関節軟骨が再生する可能性あり

大阪大学大学院医学系研究科健康スポーツ科学講座助教
金本隆司

変形性ひざ関節症はひざの関節軟骨がすり減って炎症・痛みを引き起こす運動器疾患

[かなもと・たかし]

1999年、大阪大学医学部医学科卒業。医学博士。2007年、同大学同学部附属病院、大阪労災病院、八尾市立病院、阪南中央病院勤務を経て、2018年より現職。日本整形外科学会専門医、日本リハビリテーション医学会専門医。

 変形性ひざ関節症は、ひざの関節軟骨がすり減ることで関節が変形し、炎症や痛みを引き起こす運動器の疾患です。厚生労働省の調査によると、変形性ひざ関節症の自覚症状がある方は約1000万人、潜在的な患者さんは約3000万人に上るといわれています。

 ひざ関節は、太ももの大腿骨とすねの脛骨、ひざのお皿と呼ばれる膝蓋骨で構成されています。脛骨のすぐ外側には、腓骨と呼ばれる細い骨があり、靭帯によって大腿骨・脛骨と結ばれています(健康な右ひざ関節の図参照)。

 ひざ関節は、関節包という袋に包まれています。関節包の内側には滑膜という組織があり、滑膜を構成している滑膜細胞は、関節液の分泌と吸収を行っています。関節液には、関節の動きをスムーズにする潤滑油としての役割があります。さらに、関節軟骨に水分や酸素、栄養を運ぶ役割もあります。

 ひざの関節軟骨は、大腿骨と脛骨の先端部分の表面や、膝蓋骨の裏側の表面を覆って保護しています。弾力性がある関節軟骨は、ひざに加わる衝撃を吸収して分散したり、関節の動きを滑らかにしたりする働きがあります。

健康な右ひざ関節

 ひざの動きに密接に関わっているのが半月板です。半月板は、大腿骨と脛骨の関節軟骨の隙間にある、三日月のような形をした板状の軟骨です。ひざ関節の内側と外側に1つずつあり、同じ軟骨でも関節軟骨とは種類が異なります。半月板には、ひざにかかる負荷や衝撃を和らげるクッションの役割やひざ関節を滑らかに動かす役割があります。ケガや加齢などによる半月板の損傷や質の低下によって、関節軟骨への負荷が大きくなることが分かっています。

 関節軟骨がすり減って変形性ひざ関節症になると、大腿骨と脛骨の隙間が狭まって「骨棘」と呼ばれる骨の突起が形成されたり、関節軟骨のかけらができたりします。一般的に、骨棘や関節軟骨のかけらが、骨や関節包、滑膜などの周囲の組織に刺激を与えて炎症を引き起こすと、ひざに痛みが起こるといわれています。

 炎症が起こると、プロスタグランジンE2などの「炎症性サイトカイン」が産生されます。炎症性サイトカインは、炎症反応を促進する物質で、痛みをさらに増大させてしまうのです。

 関節軟骨がすり減ると、衝撃を吸収する働きも低下します。骨に大きな衝撃が加わることも痛みの原因の1つです。特に、変形性ひざ関節症が末期まで進んで関節軟骨の下で土台の働きをしている硬い骨(軟骨下骨)が露出すると、骨どうしがぶつかり合って強烈な痛みが生じるようになります。

変形性ひざ関節症が末期まで進行すると人工関節置換術が必要な場合もある

 変形性ひざ関節症の症状の進行度合い(病期)は、骨棘や関節の隙間(関節裂隙)によって分類されます。国際的には「ケルグレン・ローレンス法(KL法)」が用いられています。KL法は、寝た状態で撮影したひざ関節のレントゲン写真を用いてひざ関節の状態を判定する方法で、グレード0~4の5段階に分類されます。

 変形性ひざ関節症が末期まで進行してしまって、痛みなどにより日常生活に大きな支障が出ている場合、変形したひざ関節を人工関節に置き換える「人工関節置換術」が検討されます。ただし、人工ひざ関節の耐用年数は一般的に15~20年程度といわれており、若い患者さんには積極的にはすすめられないのが現状です。

 そのため、変形性ひざ関節症に対しては、進行予防とあわせて早めに治療に取り組むことが大切です。末期でなければ運動療法が基本となり、重視されています。痛みのせいで動かしたくないと考えがちですが、運動療法が変形性ひざ関節症に有効であることはさまざまな研究で確かめられています。動物実験では、適度な運動が軟骨再生に有用であることを示す結果が得られているものもあります。

 さらに近年では、「早期変形性ひざ関節症」という概念に注目が集まっています。早期変形性ひざ関節症は、持続する痛みがあるにもかかわらず、見た目はもちろんレントゲン画像でも判断できない状態で、変形性ひざ関節症の一歩手前である予備群と定義されています。

 早期変形性ひざ関節症の段階での診断と治療の開始が、進行してから治療を始めるよりも有用と考えられています。私たちの研究グループが行った実験でも、早期に治療に取り組むほうがいいという考えを支持する結果が得られています。

適度な運動による刺激が骨・軟骨の修復・再生に重要な物質の発現量を増やすことを実証

1日1時間、ヒトのひざ関節の軟骨細胞にピストン運動による負荷をかけた実験。その結果、軟骨の修復・再生に重要な物質であるSOX9やBMP2の発現が有意に増加した

 私たちの研究グループは、運動による負荷がひざ関節の軟骨細胞に及ぼす影響を調べるためにヒトの細胞を用いた実験を行いました。私たちが採用している実験方法で特徴的といえるのが、細胞の三次元培養です。

 細胞実験は、手術などで不要になったひざ関節の軟骨細胞を培養して行われますが、通常は二次元培養という手法が取られます。しかし、二次元培養では、細胞を平面的にしか培養することができないという問題がありました。私たちが採用している三次元培養では、細胞を立体的に培養することができ、人間の体内に近い状態で再現することができるのです。

 実験では、ピストン運動で一定の負荷を繰り返してひざ関節の軟骨細胞に与える、特殊な装置を使用しました。ピストン運動による負荷の大きさを0~4㌔パスカル(圧力の単位)の範囲で変えながら、ひざ関節の軟骨細胞に1日1時間の刺激を与えて反応の違いを観察しました。

 実験の結果、軟骨や滑膜、半月板などの細胞に負荷を与えつづけたところ、痛みの原因となる炎症性サイトカインの発現量は、負荷が大きくなるほど増えることが分かりました。これは、骨棘や関節軟骨のかけらによる刺激を介さずに、運動が直接的に炎症性サイトカインの発現量を増やし、痛みを憎悪させてしまう可能性を示しています。

 一方で興味深いのは、負荷が0㌔パスカルのときと比べて、20㌔パスカルのときのほうがSOX9やBMP2といった物質が明らかに多く発現したという点です。SOX9やBMP2は、関節軟骨の修復・再生の促進に重要な物質です。ただし、負荷が大きすぎると、SOX9やBMP2の発現量が減少してしまうことも分かりました。

 さらに、マウスの骨芽細胞(新しい骨を作る働きを持つ細胞)を使って同様の実験を行ったところ、5㌔パスカルの負荷のさいに骨芽細胞の成熟が最も促進されることが分かったのです。これは、軽度の運動による刺激で骨が強化される可能性を示唆しています。

マウスの骨芽細胞に1日1時間、ピストン運動による負荷をかけた。その結果、軽度な負荷のさいに骨芽細胞の成熟が最も促進されることが判明。骨の修復・強化を担う骨芽細胞の成熟は骨の修復力の向上を意味する

 私たちが行った研究の結果は、適度な運動による刺激が関節を構成する軟骨や骨の修復・再生に有用であるという考えを支持しています。適切な運動療法であれば、変形性ひざ関節症の治療に有効ということがあらためて確認できたといえるでしょう。もちろん、過度な運動は痛みの悪化因子となる炎症性サイトカインの発現を促進してしまうおそれがあるため、見極めがとても大切です。

 今後の課題として、ピストン運動による負荷の大きさが実際の日常生活でどの程度の負荷に相当するかを突き止めることが挙げられます。つまり、どの程度が「適度な運動」なのかを見極める必要があるのです。ただし、患者さんによっては歩くだけでも過剰な負荷となる場合もあるため、万人に共通する指標を求めるのは困難かもしれません。

 また、適度な運動がいい効果を生むしくみについても不明な部分が多く、今後の研究が期待されています。手術をしてしばらく体を動かさないだけでも筋肉は落ちていきますし、スポーツ選手の骨密度が競技種目によって違うといった報告もあります。運動量や運動の種類によって、筋肉・骨などの運動器の細胞への影響が異なることが推測されます。

 私が変形性ひざ関節症の患者さんにおすすめしている運動は、大腿四頭筋(太ももの前方にある筋肉)の筋力を維持する「ひざ伸ばし運動」です。変形性ひざ関節症の患者さんの中には、曲げにくくなったひざを無理に曲げようと努力する人が少なくありません。運動療法に取り組むさいも、曲がる角度を強く意識されることが多いようです。

大腿四頭筋を鍛えて歩行時の負担を減らす「ひざ伸ばし運動」が多くの方におすすめ

ひざ伸ばし運動

 もちろん、ひざの曲がる角度が重要なことは間違いないのですが、ひざを曲げる動作は関節の負担となります。中でも、正座に近いような深い角度に曲げる動きは、想像以上に関節の負担となるおそれがあります。ひざを曲げる運動に取り組むさいには注意が必要です。

 一方で、ひざを伸ばす運動は、変形性ひざ関節症の痛みに苦しむほとんどの方にとって危険が少なく、メリットの大きい運動です。ひざをしっかり伸ばすことができれば、歩行時の負担を減らすことができます。さらに、ひざを伸ばす訓練は、大腿四頭筋を鍛えることにもなります。簡単な方法を2つご紹介しましょう。

 1つ目は、よく知られた方法で、イスに座りながら足を伸ばした状態を維持する運動です。しっかりとひざを伸ばしきるようにがんばるのがコツです。

 2つ目は、「タオル押し運動」と呼ばれる方法で、私が一押しする運動です。初めは痛みがあったり、力を入れる感覚が分からなかったりするかもしれませんが、継続することで痛みが減り、効果を実感されることと思います。ぜひ、日常の中に取り入れてみてください。