大腸がんの個別化医療へ向けた薬剤感受性試験の開発

京都大学、日本医療研究開発機構

求められる患者ごとに有効な抗がん剤の予測

 大腸がんの治療成績は、手術技術や抗がん剤の進歩によって年々成長しています。一方、肝臓や肺に転移してしまった場合の予後は未だよくありません。転移がんに対しては化学療法が中心となりますが、抗がん剤の効果はがん細胞の性質によって違うため、有効な抗がん剤を患者さんごとにあらかじめ予測して投与する個別化医療の実現が望まれています。

データベースとの照合による最適な調剤選択の実現へ

 様々な遺伝子の異常が蓄積しているがん細胞のパターンはそれぞれに異なります。しかしながら、近年、遺伝子解析技術の劇的な進歩によって、がん細胞の持つ遺伝子変異を全て解明することが可能になりました。この技術により、遺伝子変異とその治療実績が解析され、データベース化されています。将来的には、このデータベースを用いた最適な調剤選択が実現されることが望まれています。

がん細胞スフェロイドの体外培養の問題点

 従来、摘出がんから分離したがん細胞を体外培養することは困難でありましたが、ゲル状のタンパク質、いわゆるマトリゲルに埋め込んだがん細胞を、スフェロイドまたはオルガノイドと呼ばれる立体状の細胞の塊として培養する方法が近年開発されました。しかしながら、この培養方法は、特殊な技術と複雑な組成の培養液を必要とするため、全ての患者さんに適用することは現実的ではありませんでした。

培養液の簡素化によるコスト減と試験期間の短縮

 これまでは、がん細胞の培養に10種類以上の化学物質やタンパク質を加えた特殊な培養液が使われますが、新たな手法では、2種類の化学物質を加えた培養液によって、大腸がん患者由来のがん細胞スフェロイドを2週間から2ヶ月という短期間で樹立することに成功しました。さらに、増殖因子と化学物質を新たに加えることにより、培養の成功率が約9割に上がりました。

がんスフェロイド培養によるゼノグラフトの効率化

 通常、生体内ではがん細胞は体内環境の影響を受けるため、がん細胞を免疫不全マウスに移植するゼノグラフト(異種移植)による投薬試験が行われます。これをPDX(Patient-derived xenograft)といいます。しかしこの手法は、がん組織をマウスに移植してもなかなか定着しないことによって試験期間が長くなり、コストが増大することから実際の臨床サービスには不向きでした。そこで開発された手法は、がんスフェロイドを十分に培養してから免疫不全マウスに移植するPDSX(Patient-derived ”spheroid” xenograft)と呼ばれるものでした。この手法は、がん組織を直接移植するより効率よく、短期間で移植することに成功しました。

PDSXの効果と今後

 PDSXとPDXを比較すると、PDSXの方が形成される移植がん細胞が均一で、投薬試験もより信頼性の高い効果が得られました。試験期間もPDSXが平均2ヶ月であるのに対し、PDXは平均5ヶ月という結果でした。PDSXはPDXより低コスト、高効率であることから、医療サービスとして直ちに提供できる水準にあります。この方法は有効な抗がん剤を予測するだけでなく、効かないとされる抗がん剤も予測できるため、患者さんの身体的、経済的負担を軽減することができます。今後は企業への技術移転を行ってこれらの試験を受託事業する体制を整える予定です。