地球最古の光合成生物であるマイクロアルジェに顕著な抗菌作用があると判明し特許を取得

名城大学農学部教授
小原章裕

抗生物質の代わりとしてマイクロアルジェに注目

ハプト藻は地球で最も古い光合成生物といわれるマイクロアルジェの1種

 マイクロアルジェは顕微鏡でしか見えない小さな藻類で、「微細藻類」や「植物性プランクトン」と呼ばれることもあります。種類は30万種類にも及ぶといわれ、スピルリナやクロレラなどの名前を聞いたことがある方もいるでしょう。

 マイクロアルジェは地球最古の光合成生物として知られ、およそ24億年前の地層に現在のマイクロアルジェとほぼ同じ形の化石が発見されています。また、オーストラリアの一部の海岸などに見られるストロマトライトという岩は、マイクロアルジェと砂粒などが堆積してできた「呼吸する岩」と呼ばれ、世界遺産に指定されています。

 マイクロアルジェは地球最古の光合成生物であり、現在までほとんど形態が変化していないことから、さまざまなストレスに対応できる力があるのではないかと注目が集まり、近年多くの専門家が研究に取り組んでいます。マイクロアルジェには、多種多様な働きや有効成分が確認されています。

 マイクロアルジェが元気に育つために欠かせないのは、強い日ざしと清浄な水です。国内で日光と水の条件がそろった沖縄県宮古島の海岸にマイクロアルジェ専用の培養農場(宮古ファーム)が作られています。管理培養による良質なマイクロアルジェの大量生産とともに、効率のよい培養システムの研究などが行われています。

 私は、昨今の食生活の環境下において、抗生物質が多用されていることを問題視しています。抗生物質の弊害として、耐性菌の発生や人体に与える悪影響などが多く報告されています。

 毎日摂取しても安全な食品中に含まれる人に優しい抗菌成分を明らかにすることは重要な取り組みです。抗菌成分を組み合わせることで、抗生物質と同等の効果を生み出す可能性があるからです。現時点では、天然の抗菌成分に対して耐性を示す菌はほとんど見つかっていません。マイクロアルジェも、その有力候補といえるでしょう。

 マイクロアルジェの中でも、特に注目されているのが、ハプト藻です。私は、これまでにハプト藻の研究を重ねることで、人の健康に有害な細菌に対して抗菌作用を発揮することを突き止めてきました。

● MRSAに対する抗菌作用

 MRSAは、「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌」と呼ばれています。黄色ブドウ球菌は非常にありふれた菌で、私たちの髪や皮膚、鼻の粘膜、口腔内、傷口などに付着しています。黄色ブドウ球菌は基本的に弱毒菌のため、私たちの免疫力がしっかりしていれば重症化することはありません。

 一方、MRSAは耐性遺伝子を持っているため、抗生物質が効きにくいタイプの黄色ブドウ球菌です。そのため、MRSAに感染すると治療が思うように進まず、患者さんの免疫力に頼って回復を待つことが少なくありません。重症化すれば、敗血症や髄膜炎、心内膜炎、骨髄炎などに陥って死に至るケースもあります。

 私は、MRSAに対するハプト藻の抗菌作用の有効性を調べる実験を行いました。乾燥させたハプト藻を熱水とエタノールで抽出し、MRSAの培地に添加したところ、用量を増やすほどコロニーの生成を阻害することが確認されました。食経験だけでなく科学的な試験でも安全性が確かめられているハプト藻は、極めて有効な抗MRSA剤となる可能性があり、「抗MRSA組成物」として特許を取得しています。

● う蝕菌に対する抗菌作用

 う蝕菌は虫歯菌として知られています。砂糖を含む食べ物を食べると、う蝕菌がショ糖を原料にして多糖類(グルカン)を作ります。多糖類には粘着性があり、歯の表面で他の口腔細菌とともに塊(プラーク)を形成し、虫歯を発症・進行させる最大の原因となります。

 そこで、う蝕菌にハプト藻の熱水抽出物を添加したところ、49%減少させることが確認できました。健康な歯を維持することは、全身の健康や生活の質(QOL)に大きく影響することがさまざまな研究によって明らかにされています。ハプト藻の抗菌作用は「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という8020運動の一助になる可能性を秘めていることが分かりました。

マイクロアルジェで生活習慣病の予防も期待

ハプト藻の抽出物をMRSAに添加したところ、コロニーの生成が阻害された

 さらに、ハプト藻を中心とするマイクロアルジェには、抗変異原試験という試験法によって発がん物質の働きを抑制する効果があることが確認されています。また、糖尿病をはじめとする生活習慣病を予防・改善する効果も期待されています。

 ハプト藻が属するマイクロアルジェは、人の健康に対する機能性が優れているだけではありません。マイクロアルジェの仲間には石油に代わるバイオ燃料を作り出す働きもあります。マイクロアルジェは地球の環境保護や資源問題など、21世紀において人類が抱える最重要と考えられる課題を解決できる可能性さえ秘めているのです。