女性ホルモンが減少する更年期は自律神経の乱れが深刻で耳鳴り・めまいに要警戒

JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長
石井正則

更年期の耳鳴りやめまいはエストロゲンの減少と心因性のストレスで起こる

石井正則[いしい・まさのり]

1980年、東京慈恵会医科大学卒業。1984年、同大学大学院修了後、米国ヒューストン・ベイラー医科大学耳鼻咽喉科に留学。1987年、東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科医長。2000年、同准教授を経て、現職。八重洲クリニック・耳鳴り・めまい・難聴・ストレス特殊外来担当を兼務。日本耳鼻咽喉科学会専門医・評議員、日本めまい平衡医学会・専門医・めまい相談医・評議員、宇宙航空研究開発機構(JAXA)・宇宙医学審査会委員。著書に『自律神経を良くすれば、耳鳴り、めまい、難聴も良くなる!』(廣済堂出版)など多数。

 現在、日本国内で耳鳴りやめまい、難聴に悩まされている人は約2000万人に上ると推定されています。特に女性が増加しており、当院を受診される患者さんも女性が増えています。

 こうした男女差が生まれる背景には、女性特有のホルモンバランスの変化が密接に関係していると考えられています。卵巣から分泌される女性ホルモンには、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類があり、女性が妊娠・出産するためにはなくてはならないホルモンです。特にエストロゲンは、子宮の発育を促したり、受精卵の着床を助けるために子宮内膜を厚くしたり、自律神経を整えたりする重要な働きをしています。

 ところが40代に入ると卵巣の機能が衰えてエストロゲンの分泌量がしだいに減少し、閉経前後で激減します。この閉経前後の時期は「更年期」と呼ばれ、個人差はありますが、具体的な期間は45~55歳頃といわれています。

 エストロゲンの分泌の司令塔になっているのは、脳の視床下部という部分です。視床下部は血液中を流れるエストロゲンの量を常に監視し、エストロゲンの量を正常化するように指令を出しています。ところが、どんなに指令を出されても、更年期以降の卵巣ではエストロゲンを分泌することができません。こうした状態が続くと、視床下部が混乱して、その混乱が同じ部分に中枢を持つ自律神経にも悪影響を及ぼし、耳鳴りやめまいなど、さまざまな更年期症状が現れるのです。

 一方で、更年期に起こる耳鳴りやめまいの原因には、ストレスも関係していると考えられています。更年期に当たる女性の世代では、夫の異動や定年、子どもの進学・結婚、親の介護など、悩み事が増える時期です。

 つまり、女性ホルモンの分泌量が減少する更年期に、悩みを抱えストレスが高じると、中枢性自律神経ネットワーク(CAN)(一七㌻参照)が亢進します。自律神経のバランスが著しく乱れて交感神経が優位に働き、耳鳴りやめまいをさらに深刻なものにしてしまうのです。

 慢性的な耳鳴りの背景には、メニエール病や突発性難聴など、深刻な耳の疾患が潜んでいる恐れがあります。早期に耳鼻咽喉科や婦人科、心療内科などを受診して、適切な治療を受けることが肝心です。さらに、日頃から体の不調と向き合い、ストレスをコントロールすることが重要になります。次に、ストレスを和らげ、自律神経や女性ホルモンのバランスを整えてくれる方法をご紹介しましょう。

脳をリラックスさせる呼吸法やホルモンバランスを整える大豆食品は耳鳴り・めまいに有効

ハチの羽音呼吸法を行った5分後に聞き取り調査をすると、21人中16人に耳閉塞感の改善が見られた

 自律神経は本来、自分で意識してコントロールできません。ところが唯一、自律神経に働きかけることができるものがあります。それが「呼吸」です。

 通常、交感神経が優位になると浅く速い「胸式呼吸」になり、副交感神経が優位になると深くゆっくりとした「腹式呼吸」になります。腹式呼吸は副交感神経が刺激され、心身の緊張が取れてリラックスできます。しかし、耳鳴りやめまいを訴える患者さんは、浅い胸式呼吸をしているという共通点が見られます。

 胸式呼吸では、呼吸補助筋という首や肩にある筋肉群を使って、肩を上下させながら呼吸しています。呼吸補助筋を使うと首や肩に凝りが生じ、交感神経が刺激されて、緊張状態が継続します。その結果、自律神経が乱れて脳が興奮した状態になり、耳鳴りやめまいが起こりやすくなるのです。

「ハチの羽音呼吸法」のやり方

 そこで、おすすめなのがヨガの呼吸法の1つ「ハチの羽音呼吸法」です。ハチの羽音呼吸法は、脳の興奮を鎮めて自律神経を整え、低音の耳鳴りや耳閉塞感(耳が詰まった状態)の緩和につながると期待されています。

 低音の耳鳴りと耳閉塞感の悪化を感じている患者さんに、ハチの羽音呼吸法を5分間行ってもらったところ、21人中16人の耳閉塞感が改善しました。さらに、ハチの羽音呼吸法を行っている患者さんの脳波を測定すると、α波(脳の安定状態を示す指標)が通常よりも多く確認でき、脳の興奮が治まっていることも分かりました。

 ハチの羽音呼吸法は簡単で、誰でもすぐに行うことができます。習慣化するために3ヵ月間は続けるようにしましょう。

 その他、更年期障害に悩む方におすすめするのが、納豆、豆腐、みそ、豆乳などの大豆食品です。特に、大豆だけに含まれる「大豆イソフラボン」は、女性ホルモンと同様の働きを持つことが認められており、さまざまな実験で骨粗鬆症の予防・改善効果や更年期に伴う諸症状の緩和に役立つとされています。

 しかしながら、厚生労働省が推奨するイソフラボンの1日当たりの摂取量は、70~75㍉㌘です。納豆で1日1~2パック、豆腐で3分の1~半丁ほどで十分といえます。更年期前の健康な女性は、とりすぎると逆にホルモンバランスをくずす恐れがあるため、上限を超えないように注意しましょう。