貧血予防への指針―ビタミンCが鉄分の吸収を促進する

島根大学

生物の生命維持に「鉄」は不可欠です。人間の体内には釘1本分(約5g)の鉄がイオンとして存在します。ヒトが、食物中の鉄イオンを十二指腸の柔毛から吸収することは、古くから知られています。

鉄の重要性

 私たちヒトは、「鉄」を十二指腸の柔毛を経由し、食物中の鉄イオンから摂取しています。鉄は、酸素の運搬や貯蔵、呼吸によるエネルギーの獲得や遺伝子の合成、毒素の分解など、重要な生理機能に用いられます。人間の体内には約5gの鉄イオンが存在しますが、排泄、皮膚の剥離、脱毛などにより毎日1〜2mgが失われます。体内の鉄イオン濃度を一定に保つため、失われた鉄は食事から補います。しかし、食事を十分にとれなかったり摂取する食物中の鉄分が不足している場合、鉄分は不足します。この状態を鉄欠乏性貧血と呼びます。

鉄欠乏性貧血

 鉄欠乏性貧血は、世界人口の約30%以上(20億人以上)に見られる深刻な栄養問題です。予防と治療のためには、食物に含まれる鉄イオンの効率的な吸収方法を見出すための情報が必要となります。研究が開始された当初、膜タンパク質を介して鉄イオンがどのように吸収されるかについてのメカニズムはすでに明らかとなっていました。

鉄吸収の仕組み

 鉄イオンの吸収には「食物中の鉄イオン(Fe3+)を還元する酵素 Dcytb」と 、Dcytb によって「還元される鉄イオン(Fe2+)を細胞内に取り込むトランスポーターDMT-1」の、2種類の膜タンパク質が関与しています。食物中の鉄イオンは、ほとんどがFe3+の状態で存在しますが、DMT-1はFe2+しか輸送できません。そのため、DcytbにはFe3+をFe2+に変換するという重要な役割を担います。本研究では、ヒトの十二指腸における鉄イオンの吸収について詳細を知るため、鉄還元酵素Dcytbの立体構造および機能メカニズムの解明を目指しました。

ヒト由来Dcytbの立体構造

 食物中の鉄イオンは多くFe3+で存在します。しかし、細胞内へ鉄イオンを輸送するタンパク質 DMT-1はFe2+しか輸送できません。輸送するために、鉄還元酵素Dcytb が Fe3+を Fe2+に還元してから細胞内に運びます。還元のメカニズムを解明するため、Dcytbの結晶に大型放射光施設「SPring-8」のマイクロフォーカスビームラインBL32XUで高輝度なX線ビームを照射し測定しました。その結果、世界で初めてヒト由来のDcytbの立体構造が解明され、DcytbがFe3+だけでなくビタミンCも結合することが明らかとなりました。

世界的な栄養問題

 鉄欠乏性貧血は発展途上国の食糧不足を原因とすることで知られますが、過度の減量による発症が先進国でも知られています。ビタミンCやクエン酸などが鉄イオン吸収を促進することが解明されたことは、鉄代謝異常による疾病への理解につながるはずです。研究が、早急な予防対策が望まれる世界的な栄養問題「鉄欠乏性貧血」の、予防と治療に向けた解決の始まりになることが期待されます。