熱帯魚がもたらす斜視の早期治療への可能性


 斜視とは、片目が目標と違う方向に向いてしまう病です。
 子供の約2%の確率で発症すると言われています。
 斜視は、環境要因と遺伝要因が原因と考えられています。
 しかし遺伝要因は、今のところ一部しか解明されていません。

 眼の動きの発達に関わる遺伝子を発見し、その働きを理解することで、斜視の適切な治療につながると期待されています。国立遺伝学研究所の研究グループは、眼の動きの発達に必要な新しい遺伝子を発見しました。眼の動きは、脳からの指令を眼を動かす筋肉に伝えることで制御されます。

国立遺伝学研究所

目の動きや顔の表情と遺伝子の関係

 眼の動きや顔の表情は、脳からの指令が頭部の筋肉に伝わることで生まれます。
しかし、生まれつき脳と筋肉のつながりに異常がある場合、目の動きや顔の表情に障害が現れます。このような障害には、遺伝子の変異が原因であると予想されていますが、そのような原因となる遺伝子は、未だに発見されてないものが多いのです。眼の動きの発達に必要な遺伝子を発見し、その働きを詳しく理解することは、斜視の仕組みを理解することや適切な治療法開発につながる可能性があります。

光る熱帯魚を使った実験

 本研究グループは、眼を外側に回転させる脳の神経細胞と、その指令を受け取る筋肉、それぞれが異なる蛍光色で光る熱帯魚ゼブラフィッシュを作製しました。身体が、ほぼ透明に近い稚魚期にそれぞれが発する光を観察することで、外転神経と筋肉のつながりの全体像を捉えることに成功しました。さらに、この観察法とゲノム編集などの最新の遺伝子操作技術を組み合わせ、遺伝子の働きの変化が、外転神経と筋肉のつながりに与える影響について詳しく調べました。
 その結果、「プロトカドヘリン」と呼ばれる細胞表面のタンパク質をつくる遺伝子の働きを阻害すると、外転神経核が凝集し、「軸索(じくさく)」と呼ばれる神経と筋肉とのつながりに必要なケーブル的役割を果たす突起が伸長しなくなることがわかりました。

 この結果は、プロトカドヘリンがもたらす反発力を利用しながら、外転神経が軸索を伸ばして筋肉へとつながることを示しています。
 本研究グループメンバーの浅川助教授は「プロトカドヘリンがもたらす適度な反発力によって、外転神経が全体として柔軟に形を変えられる水のような性質を獲得し、水の流れのように軸索を伸ばして筋肉とつながるのかもしれません。この反発力がないと筋肉と繋がる前に固まってしまう」と予想しています。

新たな治療法開発、ALSの研究進展への期待

 筋肉に指令を伝える脳の神経細胞の表面は、つながる筋肉ごとにそれぞれ異なるプロトカドヘリンで覆われています。したがって、プロトカドヘリンによる反発力を利用する仕組みは、様々な筋肉と脳のつながりにおいて働いている可能性があります。今後、プロトカドヘリンの働きに着目することで、目の動きや顔の表情を作る時などに生まれつき障害が現れる仕組みの理解が進み、新たな治療法開発が期待されます。

 また、全身の筋肉が衰えてしまう難病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)では、目の動きを生み出すための脳と筋肉のつながりは、病気が進行してもその働きを保つことが知られています。今回の研究で開発した外転神経の研究手法を活用することで、ALS発症の仕組みに関する研究にも進展が期待されます。