透析患者は皮膚のかゆみや痛みの合併症が深刻でカルニチン欠乏による筋力低下も誘発

武蔵野徳洲会病院院長
鈴木洋通

腎機能が低下している透析患者の7割以上がかゆみに悩み不眠も招いていると判明

[すずき・ひろみち]

1975年、北海道大学医学部卒業。医学博士。1981年、米国クリーブランドクリニック留学。慶應義塾大学医学部講師・助教授などを経て、1995年、埼玉医科大学教授に就任。2015年から武蔵野徳洲会病院院長。日本透析医学会認定専門医、日本透析療法学会指導医、日本腎臓学会認定専門医。

 わが国の慢性腎臓病(CKD)患者さんの数は約1330万人と推計され、そのうち人工透析を受けている患者さんは30万人以上に上ります。人工透析を20年以上続けている人は約20万人、10年以上続けている人は約7万人といわれています。人工透析を長期にわたって受けることで、多くの合併症の危険性が高まって生活の質が低下しやすくなります。

 新潟大学の成田一衛教授は、2000年に新潟県で慢性期の透析患者さん2550人を対象に、かゆみが生活にどのような影響を与えるかに関する大規模調査を行いました。その結果、70%以上の透析患者さんにかゆみを覚えた経験があり、そのうちの75%がかゆみを毎日訴えていることが分かったのです。かゆみを覚える時間帯は夜間が最も多く、約半数に不眠も認められました。

 さらに、経過観察として行われた慢性期の透析患者さん1773人を対象にした追跡調査では、約30%が深刻なかゆみに悩んでいることが判明。かゆみの程度が重度であればあるほど不眠に苦しみ、生活の質の低下を招いていることが明らかになったのです。

 国際的な調査でも日本国内と同様の結果が出ていて、透析患者さんの約70%がかゆみを訴えています。かゆみの程度を軽度・中等度・重度の三つに分けると、中等度以上のかゆみに悩まされている患者さんが約45%に上ることが判明したのです。かゆみの程度が重度の患者さんほど、生存率が低いことも確認されています。

 透析患者さんのかゆみと生活の質には、密接な関係があると考えられます。先述した国際的な調査によると、中等度以上のかゆみに悩まされている透析患者さんは、最大で5倍以上も疲労感を覚えやすく、1.7倍もうつ病を発症しやすいことが報告されています。

 人工透析の患者さんは、なぜ皮膚が乾燥したり、かゆみに悩まされたりするのでしょうか。

 皮膚の乾燥は、透析による汗腺の萎縮が原因でないかと考えられています。通常、汗腺から出た汗は皮脂と混ざり合って皮膚全体に広がり、外部からの刺激を防いでかゆみを抑えます。しかし、汗腺が萎縮すると汗の出る量が減少し、皮膚の防御機能が低下します。さらに、皮膚が乾燥すると、かゆみを伝える末梢神経が皮膚の浅いところまで伸びてくるため、かゆみを感じやすくなるのです。

 また、長年の透析が副甲状腺に影響を与え、皮膚や関節、筋肉にリン酸カルシウムの結晶が蓄積する「異所性石灰化」も、かゆみや関節・筋肉の痛みを招く原因の一つです。副甲状腺の働きは、主にカルシウムの代謝の仲立ちをするホルモンを分泌することです。しかし、ホルモンの分泌量が増えすぎると、骨以外の正常な組織を石灰化し、それに伴ってかゆみや関節・筋肉の痛みを引き起こすのです。

 人工透析をするさい、透析が不十分な場合はかゆみが出るようになります。本来ならろ過されるはずの尿毒症物質が血液中にたまることで、かゆみの原因であるヒスタミンが分泌されやすくなります。さらに、尿毒症に関わる物質が皮膚に蓄積することで皮膚を刺激し、かゆみを引き起こすのです。

透析に伴うかゆみにはかゆみを抑える受容体を整える治療が有効で患者の9割が改善

かゆみが軽度から中等度の透析患者さんにおける生存率の差は小さいが、重度では生存率が低下。透析期間が長期になるほど差が大きくなる
『Narita.l..et al kidney int.2006;69:1626-1632』から引用

 一般的にかゆみの治療というと、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬が処方されます。しかし、透析患者さんに使用しても、あまり効果が期待できないのが実状です。

 人間の体には、皮膚のかゆみや痛みなどの感覚を伝える経路があります。そうした経路の末端(皮膚側)には、鎮痛作用に関わる「オピオイド受容体」という器官があります。オピオイド受容体には、μ・κ・δの三種類があり、それぞれの受容体に特定の物質が結びつくことで鎮痛作用が作動します。

 抗ヒスタミン薬が効かないかゆみの強い透析患者さんは、μ受容体に働きかける物質が増加していることが分かってきました。μ受容体はかゆみを強くし、κ受容体はかゆみを抑える働きがあります。さまざまな研究から、μ受容体とκ受容体のそれぞれを作動させる物質のバランスの異常が、かゆみの原因になっているのではないかと考えられるようになったのです。

 そこで、かゆみを抑えるκ受容体を作動させてμ受容体とのバランスを整える「ナルフラフィン塩酸塩」という薬剤が開発されました。ナルフラフィン塩酸塩は、70~90%の透析患者さんに効果があり、約80%の患者さんがその効果に満足していると報告されています。

 かゆみや関節・筋肉の痛み以外に、透析患者さんは「足のつり」「筋肉痛」「筋力低下」に悩まされることが少なくありません。原因としてカルニチンの欠乏が考えられています。

 カルニチンは、脂肪酸を燃焼してエネルギーに変えるために不可欠なアミノ酸で、約98%が骨格筋や心臓などの筋組織に存在します。通常、体内のカルニチンの約4分の3は食事からとられ、残りの4分の1はアミノ酸のリジンとメチオニンから腎臓や肝臓で作られます。

 腎臓や肝臓の機能が低下したり、食事制限によって食べ物から十分な量のカルニチンをとれなかったり、透析によって過剰に排出されたりすることで、カルニチンの欠乏が起こります。カルニチンの欠乏による足のつりや筋肉痛、筋力の低下は、食事の改善や薬剤で改善することができます。

 人工透析が長期化すればするほどかゆみや足のつりといった合併症が起こりやすくなります。少しでも体に違和感を覚えたときは1人で悩まず、腎臓病や透析の専門医に相談するようにしましょう。