慢性腎臓病の患者は貧血や骨粗鬆症を起こしやすく副甲状腺の異常には要警戒

福岡腎臓内科クリニック副院長
谷口正智

慢性腎臓病は造血・造骨機能が低下して腎性貧血や骨粗鬆症を合併する危険が高まる

[たにぐち・まさとも]

1996年、九州大学医学部卒業。同大学第2内科腎臓研究室、同大学大学院医学研究院病態機能内科学助教、米国テキサス大学サウスウェスタン・メディカルセンター内科学助教、福岡腎臓内科クリニック透析室室長を経て、現職。日本内科学会認定専門医、日本腎臓学会専門医、日本透析学会評議員・専門医。

 腎臓は血液をろ過して老廃物や尿毒素を尿として排泄します。血液の浄化以外にも、腎臓は健康を維持するために必要なホルモンを分泌しています。その1つが、骨髄などの造血細胞に作用して赤血球を作る働きがある造血ホルモンの「エリスロポエチン」です。

 赤血球は、全身の細胞に酸素を送り届ける役割を果たしています。全身に約60兆個あるといわれる細胞が正常に活動するためには、約20兆個の赤血球が必要です。

 腎機能が低下すると、エリスロポエチンを作る機能が衰えて赤血球の数が減少し、貧血が起こるようになります。腎機能の低下によって引き起こされる貧血を「腎性貧血」といいます。
 腎性貧血が起こると、全身の臓器や筋肉が酸素不足に陥ります。心臓は少なくなった酸素を全身に行き届かせるため、強い圧力をかけて血液を送り出すようになります。その結果、高血圧が進行するのです。腎性貧血によって高血圧の状態が続くと、毛細血管の集合体である腎臓に負荷がかかり、さらに機能が低下するという悪循環に陥ってしまいます。

 腎性貧血の他に、慢性腎臓病から二次的に起こる病気として、骨がもろくなって折れやすくなる骨粗鬆症も挙げられます。腎機能の低下に伴う骨粗鬆症には、血液中のカルシウムやリンといったミネラルのバランスを維持する腎臓の役割が強く関係しています。慢性腎臓病が進行すると、ミネラルの調整機能が働かなくなる「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD―MBD)」が起こりやすくなります。

血液の成分は主に骨髄で作られる。腎機能が低下すると、赤血球を作る働きがあるエリスロポエチンというホルモンの分泌量が減少。骨髄への刺激が弱くなって赤血球を作る能力が低下した結果、腎性貧血が引き起こされる

 血液中のカルシウムは、常に一定の濃度に保たれるように副甲状腺という組織で調整されています。副甲状腺は、血液中のカルシウム濃度が低下すると、副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌します。副甲状腺ホルモンには骨の形成や破壊に関わる細胞を活性化する働きがあり、骨を破壊して貯蔵されているカルシウムを血液中に送り出します。

 さらに、副甲状腺ホルモンは、骨の形成を促す活性型ビタミンDの産生にも関わっています。ビタミンDは、食事からとったり、紫外線を浴びたりすることで合成されます。ビタミンDは、腎臓や肝臓で酵素の働きを受けることで活性型ビタミンDとなり、小腸からのカルシウムの吸収を促進するのです。活性型ビタミンDは、骨を形成するうえで重要な役割を果たしています。

 ところが、腎機能が低下すると、活性型ビタミンDの産生量が減少します。活性型ビタミンDの産生量が減ると、小腸でカルシウムが十分に吸収できなくなり、血液中のカルシウム濃度も下がってしまうのです。

 慢性腎臓病になると、リンを尿中に排泄する機能も低下するため、血液中のリン濃度が上昇します。カルシウムとリンはシーソーのような関係で、血液中のリン濃度が上がると、カルシウム濃度が下がります。慢性腎臓病の患者さんは、「活性型ビタミンDの生産量の低下」と「リン濃度の上昇」という2つの理由によって、血液中のカルシウム濃度が下がってしまうのです。

 副甲状腺が血液中のカルシウム不足を察知すると、不足を補おうとして大量の副甲状腺ホルモンを分泌します。すると、骨は破壊されてどんどんカルシウムが溶け出す「二次性副甲状腺機能亢進症」を発症し、進行すると著明な骨量低下を引き起こしてしまうのです。

ミネラル代謝が異常になる慢性腎臓病の患者は心血管疾患の発症率が3倍になると判明

 九州大学の研究グループが行った福岡県久山町の住民を対象にした健康調査によると、慢性腎臓病の患者さんは心血管疾患(心臓や血管など、循環器系に起こる病気)の発症率が3倍になることが明らかになっています。

 腎機能の低下に伴ってミネラルの代謝異常が進行すると、特に透析患者さんでは、血液中のカルシウムとリンの濃度が高くなった状態が続くようになります。すると、血液中で過剰になったカルシウムとリンが結合してリン酸カルシウムという結晶になり、全身の血管内に付着・蓄積していきます。

 その結果、血管の老化である動脈硬化が進行するだけでなく、血管がガチガチに硬くなる石灰化も引き起こされるようになります。慢性腎臓病の患者さんに心臓病や脳卒中といった心血管疾患を発症する人が多いのは、血管の石灰化が深く関係していると考えられます。

 最近の研究で、慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常のカギを握っているのはリンであることが明らかになってきました。リンの蓄積は慢性腎臓病の早い段階(ステージG2~3)から始まります。リンが蓄積することによって血液中のカルシウム濃度が低下し、二次性副甲状腺機能亢進症を引き起こしている可能性が指摘されています。

 透析患者さんを対象に血液中のリン、カルシウム、副甲状腺ホルモン濃度と心血管疾患との関係を調べた研究では、リン濃度が死亡リスクと最も関連することが示されています。慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の治療には、リン濃度の管理が不可欠です。

 慢性腎臓病は早期の段階から食事療法をしっかり守ることで進行を遅らせ、副甲状腺の機能を守ることができます。骨粗鬆症や心臓病といった合併症を防ぐためにも、健康診断を定期的に受けて慢性腎臓病の早期発見・早期治療に努めましょう。