旨・塩・甘・酸・苦の〝五味〟を意識してお酒を楽しみましょう

熊沢義雄

[くまざわ・よしお]

医学博士(京都大学)。元北里大学教授。山梨大学大学院発酵生産学修了後、北里研究所、北里大学薬学部・理学部に40年間在職。順天堂大学医学部非常勤講師。専門は生体防御学(免疫学)。日本細菌学会名誉会員。現在は北里大学発のベンチャー企業の代表として奮闘中。

今夜の酒の〝あて〟は何にしようか。この料理に合う酒は何だろうーーお酒と料理は切っても切れないパートナーといえるでしょう。お酒に合う料理を表現するさい、「マリアージュ(結婚)」という言葉もよく使われています。

 味覚として感じる旨味に塩味・甘味・酸味・苦味を加えて「五味」といいます。さらに渋み、辛味も加えることで、私たちはさまざまな料理の味を楽しんでいます。

 味覚センサーという機器をご存じでしょうか? 五味を感じ取るセンサーに加えて「渋み」センサーが内蔵されています。 

 旨味は英語でも「UMAMI」と表現されます。旨味の秘密はアミノ酸のグルタミン酸ソーダで、核酸のイノシン酸ソーダが加わると、旨味がさらに高まります。

 日本酒は発酵の過程で複数のアミノ酸と有機酸が作られます。中でも吟醸酒は、低温で発酵させると旨味が出るようになります。ビールに含まれるアミノ酸の量を1とすると、ワインは3倍、日本酒は8倍も多く含まれているといわれています。

『健康365』の読者さんは、糖とたんぱく質が結合する「糖化」という現象をご存じかもしれません。糖化たんぱくは調理の過程で生じる旨味成分の1つですが、体内で作られると病気の原因になってしまいます。

 血糖値が高い糖尿病の患者さんは、体内で糖とたんぱく質が結合してできる〝糖化たんぱく〟が沈着しやすくなります。AGE(終末糖化産物)と呼ばれる糖化たんぱくは、老化を促進させる物質として知られています。AGEはマクロファージという白血球に作用してTNF‐αという物質を作らせます。AGEが蓄積すると、TNF‐αが持続的に作られるため、炎症が慢性的に起こるようになります。

 最近では、てんぷらなどの日本料理でも、日本酒だけでなく、白ワインを組み合わせて食べる人が増えています。日本酒も白ワインも有機酸が含まれています。有機酸にはクエン酸、リンゴ酸、コハク酸などがあり、独特の酸味によって料理の味が引き立てられるのです。

 日本酒の場合、有機酸は発酵の過程で作られます。ワインはブドウそのものに有機酸が含まれており、その量は栽培条件で異なります。赤ワインは有機酸に加えて、抗酸化作用がある色素成分のポリフェノールが多く含まれています。ブドウの果汁を発酵させる白ワインはポリフェノールの含有量が少なく、果皮や種子もともに発酵させる赤ワインはポリフェノールが豊富に含まれています。

 赤ワインに含まれるポリフェノールは、カテキン・エピカテキンという緑茶の成分や、ケルセチンというタマネギの成分、アントシアニンなど、多種にわたります。赤ワインが持つ渋みや苦味など、複雑な味が決め手となって、料理の味をより引き立ててくれるのです。

 体調が悪いときは料理もおいしく感じられません。最近の研究によって、味を感じる舌の味蕾には、炎症を引き起こすTNF‐αの受容体が存在していることが分かってきました。渋みや苦味がTNF‐αと結合すると味が増幅され、おいしくないと感じるようになるのです。例えば、口腔内で炎症が起こっている歯周病の患者さんは、知らないうちに食べ物が持つ本来の味が分からなくなっていることもあるのです。