フロンガスをフッ素有機化合物に変換する実用的な製造プロセス

科学技術振興機構・名古屋工業大学

生活必需であるフッ素有機化合物

 フッ素有機化合物は私達の生活に欠かせません。その用途はPCや携帯電話の液晶、フライパンなどのテフロン加工品、農薬や殺虫剤、血中コレステロール値を下げる薬や抗うつ薬、抗がん薬、エイズ治療薬にまで至り、人工血液や人工血管にも使われています。

天然資源として存在しないフッ素有機化合物

 フッ素有機加工物を効率良く作る研究は盛んに行われていますが、フッ素有機化合物は天然に存在しないため、植物や化石燃料から合成することはできません。人工物から製造されるフッ素有機化合物は費用がかさみます。特に、農薬や医薬品などに使われるフッ素有機化合物は化学構造が複雑であるため、一層製造費がかかり、フッ素有機化合物を如何にして安価に作るかが重要な課題となっていました。

非オゾン層破壊物質であるフルオロホルム

 この問題に対し、産業廃棄物であるフルオロホルムに着目しました。フルオロホルムは別名フロン23とも呼ばれるフロンガスで、テフロンなどを製造する際に15000〜20000t/年で排出されています。オゾン層破壊係数が0で無毒性であるので、フッ素有機化合物の原料として魅力的であるものの、合成する際に必要なトリフルオロメチルアニオンをフロン23から発生させると、極めて不安定であるため取り扱いが難しく、フッ素原料としては不向きです。

莫大な地球温暖化係数問題

 フルオロホルムの大気中での寿命は250年以上、地球温暖化係数は二酸化炭素の1万倍以上あるため、大気中への放出は規制されています。
現在、フルオロホルムは熱酸化や触媒的加水分解により処理されていますが、その処理費用も莫大であるため、そのほとんどが貯蔵されている状況です。

フルオロホルムの有効利用の実現

 2013年、構造的に大きな有機超塩基と呼ばれるホスファゼン塩基を用いると、フルオロホルムから発生させた不安定なトリフルオロメチルアニオンが安定化されることを発見し、その手法で医薬品などの製造に有用なトリフルオロメチル化反応を実現しました。しかしながら、この手法は塩基が高価であったり、極低温での反応操作が不可欠であったりと、実用化には問題がありました。その後、フルオロホルムをジグリムと呼ばれる汎用ポリエーテル系溶媒中で安価なカリウム塩基と処理するだけで、不安定なトリフルオロメチルアニオンを分解させることなく、簡単に発生させることに成功しました。この新しいトリフルオロメチル化反応は、安価な塩基と汎用溶媒を組み合わせるだけで簡単に実施できる優れた手法であることから、フルオロホルムの実用的利用として期待されます。