B型肝炎ウイルス複製に関わる酵素が発見された

金沢大学

 金沢大学と長崎大学の研究グループは、人の細胞が持つ、「FEN1」と呼ばれる酵素が、B型肝炎ウィルスの複製に必須であるcccDNAと呼ばれるウイルスDNA形成に関わることが世界で初めて明らかにしました。これまでB型肝炎ウイルスのcccDNAは、6ヶ月以上感染が続く持続感染者から排除することが困難とされていました。また、cccDNAの形成や維持の仕組みについてもほとんどわかっていませんでした。今回の研究で、人の肝細胞でcccDNA形成に関わる酵素を発見した事は、将来の抗ウイルス薬の開発につながると期待されるとのことです。

 B型肝炎ウィルスの複製に必須なcccDNAとFEN1酵素の関係性

 B型肝炎ウイルスが持続感染者と呼ばれる、6ヶ月以上の感染が続く患者は日本国内で約110〜140万人と言われています。また、B型肝炎ウイルスの持続感染は、肝臓ガンや肝硬変へと進行していく恐れがあります。B型肝炎ウイルスは、細胞へ感染後cccDNAと呼ばれる、B型肝炎ウィルスの複製に必須な環状二本鎖 DNAを作ります。感染細胞では、この cccDNAからウイルスが作り出されるのですが、現在存在するワクチンや抗ウイルス薬では、cccDNAを取り除くのは難しく有効な治療法が無く、その形成過程の分子メカニズムもほとんど分かっていませんでした。そこで今回本研究グループは、DNAフラップ構造を切断する酵素である、FEN1がcccDNA形成に関わりがあるのではないかと考え、培養肝細胞による B型肝炎ウイルスの複製モデルを使った実験や、試験管内でのcccDNA形成を再現する新たな研究手法の開発により、FEN1の作用について検討しました。

FEN1機能低下によるcccDNA量の減少の傾向

 B型肝炎ウイルスを複製する培養肝細胞を、ゲノム編集などによってFEN1の量を減少あるいは、FEN1阻害剤を用いて機能抑制を行いました。その結果,いずれの手法においても、FEN1の機能低下に伴い、cccDNA量の減少が認められました。これは、細胞内のFEN1が、cccDNAの形成に影響を与えていることを示しています。
 また、FEN1の量を少なくした細胞に、フラップ構造を除去する能力を欠失させた変異型FEN1を導入した結果、cccDNA量は回復しませんでした。このことからFEN1の酵素活性が、cccDNA形成に関わることが示されました。

 さらに、より生体の幹細胞に近い性状のヒト肝臓培養細胞へB型肝炎ウイルスを感染させて、FEN1阻害剤を加えたところ、ウイルスの産生量低下が見られました。これは、FEN1の酵素活性を阻害したことで、B型肝炎ウイルス感染後、ウイルスを複製するcccDNAの量が減少したことが考えられます。次に、cccDNAの前駆体であるDNAを細胞から抽出し、試験管内で「FEN1」に加え、「DNAを伸長させるポリメラーゼ」「DNA末端をつなげるリガーゼ」3つの酵素と反応させたところ、cccDNAが形成さました。このcccDNAを細胞内に再び導入すると、B型肝炎ウイルスが産生されました。この反応により、試験管内でも実際のcccDNAと同じものが作られたと考えられ、前駆体 DNAのフラップ構造を、FEN1が取り除いているという分子メカニズムが示されました。

FEN1の作用機序による新たな抗ウイルス薬開発に期待

 B型肝炎ウイルスは、わずか4つしか遺伝子を持たず、その複製には宿主細胞であるタンパク質が利用されていることは、以前から推定されていました。しかし今回の研究により、細胞のDNA修復因子である、FEN1がその一つであるということが、初めて明らかになりました。この研究成果により、FEN1と前駆体DNAに対するFEN1の作用機序に注目することで、cccDNAの形成を抑える、新たな抗ウイルス薬開発につながることが期待されます。

 さらに今回の研究で開発した、細胞外でcccDNAを形成を再現する実験方法は、これまで例がなく、今後さらなるcccDNA形成分子メカニズム解明に役立たつと考えられます。