ガンの転移に関わる新たな分子を発見

滋賀医科大学

 滋賀医科大学の研究グループはEMP1(Epithelial Membrane Protein 1)という、ガンの転移に関わる新たな分子を発見し、EMP1がガン細胞に多く現れ出ているほどに、ガンの転移が起きやすいというメカニズムを明らかにしたとのことです。

 今回の発見により、ガン細胞でEMP1の出ることや、作用を抑えることができれば、今までにはないガン治療につながると期待されています。

ガンの進行や転移を阻止できる新たな抗腫瘍薬の開発の可能性

 はじめにガンが発生した臓器から、ガン細胞が離れて周囲の組織の細胞と接触すると、EMP1が増加していきました。EMP1を多く現れるガン細胞をマウスに移植すると、肺やリンパ節へガン転移が増加しました。EMP1 はガン細胞の活動を活発にさせることで、ガン転移を促進していました。その際にEMP1 は、細胞内で「Copine-III」 という分子と結合し「Rac1」 という分子を活性化していることが明らかになりました。ヒトの場合では、進行した前立腺ガンでEMP1が多く現れ出ていました。

今後の臨床応用として

(1)EMP1が現れ出ることが、ガン転移を含むガン増悪の目印として利用できる可能性。
(2)EMP1の抑制、または、EMP1の作用を弱らせたり、消滅させる化合物、作用の阻害をしてくれる抗体などを見つけることができれば、ガンの進行や転移を阻止できる新たな抗腫瘍薬を開発できる可能性があります。

ガン転移の過程とは

 現在、日本人の死因のトップはガンです。その割合は約30%を占めている言われており、その内、ガンが転移して亡くなったケースは、80~90%とも言われています。このようにガンの転移を阻止できれば、ガンによる死亡率を下げることが可能であると考えられます。

ガンの転移は

(1)はじめにガンが発生した臓器から、ガン細胞が離れて周囲の組織の細胞と接触することでガン細胞が広がる

(2)臓器の血管やリンパ管の中に侵入し、全身へと運ばれる

(3)ガン細胞は、肝臓や肺などの臓器に到達すると血管外に出る

(4)その臓器でガン細胞は転移巣を形成する

 このような段階を経て進行することが知られています。

EMP1の量がガン細胞に影響

 ガンの転移の初期段階である上述(1)の段階では、ガン細胞が臓器の血管や組織などに存在する細胞と接触する現象を模範する「DNA マイクロアレイ」と呼ばれる多数の遺伝子断片を固定した基板を用いて、発現状況を網羅的に調べました。その結果、EMP1の現れ出る量がガン細胞において3倍以上増えていることを見出しました。また、EMP1が多く現れ出る前立腺ガン細胞を作製し、マウスの前立腺にこのガン細胞を移植すると、リンパ節や肺へ転移が生じました。一方で、EMP1がほとんど現れ出ない親株の細胞を移植した場合、転移は見られませんでした。

 次に、ガン細胞の運動能が上昇すると、ガンの転移は促進されることで知られており、EMP1が、ガン細胞の運動能に与える影響を調べました。その結果、EMP1はガン細胞の運動能を顕著に上昇させることが明らかになりました。

 続いて、EMP1が、ガン細胞の運動能が上昇するメカニズムを明らかにするため、EMP1 による細胞内シグナル伝達の仕組みを調べました。質量分析法と呼ばれる、解析したいタンパク質を含む物質をイオン化し、その質量と電荷の比(m/z)の測定データなどに基づいて同定・定量する方法により結合する分子を探索したところ、「Copine-III」 という分子を同定できました。さらに詳細に検討したところ、EMP1 は Copine-III と結合することで、Src、Vav2、Rac1 という分子群を活性化してガン細胞の細胞運動能を上昇させていることが分かりました。

 最後に、ヒトのガン細胞サンプルでの解析も行い、進行した前立腺ガンにおいてEMP1が多く現れ出ることが明らかになっています。

EMP1の抑制がガンの転移を防ぐ

 EMP1は、ガンが進行した際に多く現れでていることから、EMP1は、ガンの転移を含めたガン増悪の指標として利用できる可能性があります。

 また、EMP1を抑制するまたは、EMP1による細胞内シグナル伝達を減少、消滅させることで、ガンの転移を阻止する目的の新たな抗腫瘍薬開発につながる成果といえます。