健康診断で3人に1人が異常と診断される肝機能値!肝機能の低下をもたらす原因から怖い合併症まで専門医が解説

JA広島総合病院消化器内科部長・肝臓内科主任部長
兵庫秀幸

再生能力と代償機能を持つ肝臓は損傷が起こって肝臓病に進行しても症状が出にくい

[ひょうご・ひでゆき]

1992年、広島大学医学部医学科卒業後、静岡県立総合病院内科、2000年、米国・アルバート・アインシュタイン医科大学肝臓リサーチセンター、2002年、広島大学医学部附属病院第1内科、2008年、同大学医学部附属病院消化器代謝内科診療講師などを経て、2015年より現職。日本内科学会認定内科医・専門医、日本肝臓学会専門医、日本肝臓病学会西部肝評議員。

 肝臓には、胃や腸で消化・吸収された食べ物の栄養素が血液によって運ばれてきます。肝臓はそれらの栄養素を分解・再合成した後、一部を貯蔵します。栄養素を代謝するさいに生じた有害物質は、毒性の低い物質に作り変えられ、尿や胆汁といっしょに排泄されます。

「沈黙の臓器」といわれる肝臓は、再生する力が強いことでも知られています。さらに、一部の機能に障害が起こっても、残りの部分が補う代償機能があります。

 高い再生能力と代償機能によって、多少の損傷があっても自覚症状が出にくいことが、肝臓病の早期発見を遅らせてしまう原因です。肝臓の機能が衰えると、全身にさまざまな問題が発生します。

 肝臓病を早期発見するためには、血液検査を受けて肝機能がどのくらい低下しているかを把握することが重要です。会社や自治体などで受けられる健康診断でわかる数値も多くあるので、「肝臓の機能に関する主な基準値」の表を参考にしてください。いずれかの検査値が基準値内に収まっていなければ、あなたの肝機能は低下しているといえるでしょう。

 日本人間ドック学会によると、2015年には全国で316万人が人間ドックを受診し、生活習慣病に関する検査項目で肝機能障害と判明した人は、約3人に1人の割合であると報告されています。人間ドックを受診していない人の中にも肝機能障害が起こっていると考えられるため、実際の患者数はもっと多いといえるでしょう。

 肝機能障害の初期である肝炎は、何らかの原因によって肝臓で炎症が起こり、肝細胞が壊されている状態のことです。肝炎が長期化すると、肝細胞の壊れた部分が線維に置き換わる「線維化」が起こります。線維化が肝臓の広範囲に及んで硬くなった状態を「肝硬変」といい、肝がん発症のリスクを高めます。

 肝炎は、一過性の急性肝炎と長期的に続く慢性肝炎があります。急性肝炎を引き起こすウイルスは、A型・B型・C型・E型です。D型肝炎ウイルスは、B型肝炎ウイルスに感染している人だけが感染します。

 急性肝炎にかかると、発熱や頭痛といったカゼに似た症状が起こります。この段階では、急性肝炎を自覚するのは困難です。

原因がさまざまな慢性肝炎は肝細胞が壊され肝機能が低下し肝硬変・肝がんに至る

肝臓の機能に関する主な基準値

 肝炎が6ヵ月以上続くと、慢性肝炎と診断されます。慢性肝炎が進行すると、持続的な炎症によって肝臓の細胞が壊れていきます。患者さんによっては肝硬変を経て、肝がんに至ることもあります。次に慢性肝炎の主な原因について解説しましょう。

● B型肝炎
 乳幼児や透析患者さんなど、免疫機能の弱い人がB型肝炎ウイルスに感染すると、肝炎が慢性化します。免疫機能が弱いとウイルスを異物として認識できず、ウイルスが排除されない場合があるのです。

 B型肝炎は、母子間による感染が主な経路でした。しかし、1986年にワクチンによる母子感染の予防対策が取られてからは、出産時の感染がほぼ防げるようになり、患者数は減少しています。

● C型肝炎
 C型肝炎ウイルスの感染の主な経路は輸血で、ほかには入れ墨や医療機関以外での治療器の使い回しなどがあります。C型肝炎の診断が可能になったのは1992年で、それ以降は主な感染経路であった輸血による感染はほとんどなくなりました。

 C型肝炎の場合、2~4割の患者さんはウイルスが消えて肝機能も正常になりますが、6~8割の人は慢性肝炎に移行します。慢性肝炎になると、ウイルスに感染して20~30年後に肝硬変へ移行し、肝がんを併発するようになります。

● アルコール性肝障害
 アルコール性肝障害は、①肝機能に異常がある、②アルコール以外に肝障害の原因がない、③過度な飲酒が認められる、以上のすべてを満たすと診断されます。アルコールが原因の肝臓病は、多くがアルコール性脂肪肝を経て、アルコール性肝炎、アルコール性肝硬変へと進行します。炎症を伴わずに線維化が起こることもあります。

● 非アルコール性肝障害
 偏った食生活や運動不足によって中性脂肪が肝臓に蓄積し、肝細胞の5%以上に脂肪が沈着している状態を「脂肪肝」といいます。脂肪肝は、長年にわたって良性の疾患と考えられていました。ところが、最近の研究によって脂肪肝にも肝硬変や肝がんに進行するタイプのあることがわかってきています。

 現在、過度な飲酒をせず、ウイルスや自己免疫疾患など、肝障害を起こす原因がないにもかかわらず、肝硬変や肝がんと診断される患者さんが増加しています。中でも、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の患者さんが急増しているのです。

 NAFLDは、肥満に代表されるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)を背景に発症することが多い肝疾患です。肥満や2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、高尿酸血症などを合併するほど発症リスクが高くなります。NAFLDは非アルコール性脂肪肝(NAFL)と非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に分類され、NAFLからNASHに進行する背景には、酸化ストレスやインスリン抵抗性(高インスリン血症)、肝臓内の鉄代謝異常などの関与があると考えられています。

 慢性肝炎が進行し、肝細胞の線維化が進んだ状態が肝硬変です。肝臓全体がゴツゴツした石のように硬く、小さくなります。肝機能の異常を放置した結果、知らず知らずのうちにNASHから肝硬変になってしまう患者さんは、10年で7~36%の割合にもなるといわれています。

 肝硬変は血液検査と画像診断、組織検査によって診断できます。肝硬変は、「チャイルド・ピュー分類」を用いて重症度を調べます(『肝硬変の重症度を調べる「チャイルド・ピュー分類」』の表参照)。

 肝硬変の病期は「初期~中期」と「末期」の2つに分けられます。初期~中期の肝硬変は「代償性肝硬変」と呼ばれ、肝機能の一部が残っている状態です。一方、末期の肝硬変は「非代償性肝硬変」と呼ばれ、肝機能が十分に働かなくなって、さまざまな合併症を引き起こす状態です。

肝硬変が悪化すると代償機能が低下し合併症の静脈瘤・肝性脳症・腹水を招く

肝硬変は、チャイルド・ピュー分類を用いて重症度を調べる。肝機能値を判断する数値のほか、腹水、肝性脳症などの合併症の状態、血液が固まる時間を表すプロトロンビン時間を総合的に見て判断できる
国立研究開発法人国立国際医療研究センター肝炎情報センターの資料より作成

 非代償性肝硬変まで進行すると、肝機能の低下から合併症が起こりやすくなります。合併症の中でも深刻なのが、食道静脈瘤、肝性脳症、腹水の3つです。

 肝臓が硬くなり、小腸や大腸からの血液が流れ込む血管(門脈)の圧力が高くなると、食道などの静脈が膨らみます。これが食道静脈瘤です。風船のようになった食道静脈瘤は破れやすく、破裂すると出血を起こすため、吐血や下血が見られます。出血の程度によっては生命に危険が及ぶこともあります。

 肝機能が低下すると、毒素を分解する力も弱くなります。毒素が血液中にたまって脳の働きが低下すると、肝性脳症が起こります。重度の場合、痛みに鈍感になったり、昏睡状態に陥ったりします。

 腹水はおなかに水がたまった状態です。肝硬変になると血液が肝臓に入りにくくなり、滞った血液が腹部にしみ出ると腹水となって現れます。重症の場合、数日でおなかがパンパンに張ることもあります。

 肝臓病の治療は自助努力が肝心です。肝臓病は自覚症状を感じるときには、すでに非代償性肝硬変にまで進行していることが少なくありません。そのため、人間ドックや血液検査で肝機能の低下が指摘された場合は一度、肝臓専門医がいる病院を訪れて精密検査を受けることをおすすめします。肝臓の再生能力や代償機能に甘えることなく、積極的に節酒や食事管理をすることで、肝臓病以外の病気も予防・改善できるでしょう。