音環境を豊かにすることでマウスの寿命が伸びた事を世界で初めて発見

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター

国立精神・神経医療研究センターと国際科学振興財団情報環境研究所の共同研究グループは、マウスに自然環境音が流れるケージで飼育することで、最大で17%寿命が伸びたことを世界で初めて発見したとのことです。
今回の研究で、人間が生きていく上で常に接し続けている音環境を良くすることで、平均寿命が伸びたという、ポジティブな影響をおよぼすことが世界で初めて示されました。

動物の生存における環境の重要性

 動物が取り巻く環境は、動物の生存において大きな影響を及ぼすことから、動物が生きていく上での環境問題は、高い関心を集めています。
 これまでの、動物生存の環境評価の尺度は、その環境の中に存在する有害物質、放射線量などの、物質やエネルギーが主に使われてきました。
 これに対し、動物生存においての環境は脳神経系におよぼす影響を評価するには、物質とエネルギーに加えて、欠かすことができない尺度であることから「情報環境学」の重要性が提唱されています。

「情報環境学」的観点からの行われた今回の実験

 今回の研究では「情報環境学」の観点から、実験対象となるマウスの飼育環境に音環境を設置することで、音情報に注目し、音環境の違いがマウスの寿命にどう影響するのかを長期飼育実験により検証しました。
 今回の実験では、生後8週間のマウスを、オス16匹、メス16匹、合計32匹を異なる3つの音環境のケージで飼育を行いました。

 (1)高い周波数を豊富に含む、熱帯雨林の環境音を呈示する広帯域音響条件

 (2)同じ音源から、マウスが主にコミュニケーションで用いる帯域20kHz以上の高周波成分を除去した音を呈示する狭帯域音響条件

 (3)対照条件として、通常の実験動物飼育環境の暗騒音下での飼育

 各ケージ上部には、音響再生装置と赤外線カメラが一体化した特別なスピーカーを設置して実験を行いました。
 広帯域音響条件(1)のケージと、狭帯域音響条件(2)のケージではそれぞれの条件の環境音を流すのに対して、対照条件(3)のケージはスピーカーから音は流さず、暗騒音のみとしました。
 ケージの大きさなど、その他の要素は通常のマウスの飼育環境と同じにし、マウスの自然な寿命を知るために、マウスにストレスを与えてしまう採血などの検査は一切行っていないとのことです。

今回の実験結果

 今回の実験の結果、狭帯域音響条件(2)のケージで飼育していたマウスは、対照条件(3)のケージで飼育していたマウスと比較して、平均寿命が約17%伸びた事がわかりました。
 また、広帯域音響条件(2)のケージで飼育したマウスも、対照条件(3)で飼育したマウスよりも、平均寿命が約7%伸びたことが確認されたとのことです。

 一方各条件とも、最も長生きしたマウスはほぼ同じだったのですが、各条件の環境音を聞かせたマウスは、対照条件(3)のケージのマウスよりも、死に始めるのが遅いことが分かりました。
 各ケージのマウスの寿命を詳しく解析すると、特にオスのマウスが、対照条件(3)のマウスと比較して、環境音を流した2つのケージ内のマウスでは、最短寿命が伸び、寿命のばらつきが小さくなる事がわかっています。

 また、狭帯域音響条件(2)のケージ内のマウスは、自発活動量も統計的有意に増加していましたが、寿命と自発活動量の間に有意な相関は認められなかったとのことです。
 従って、マウスの寿命が伸びたことの主な要因は、自発活動が増えたこと以外にもあるのではないかと示唆されました。

今回の実験結果から期待される今後の展開

 今回の研究結果で、マウスの通常の飼育環境において、自然の環境音を流し、音環境を豊かにすることで、マウスの自然寿命を伸ばすことを示した世界初の報告であり、音が、動物の育つ環境において、ポジティヴな効果をもたらす重要な要素であることをしめしています。

 音環境を豊かにすることで、いじめや様々な攻撃など、社会的な緊張関係やストレスを緩和することができ、皆が仲良く長生きをし、「ピンピンコロリ」な最期へと導く可能性が示唆されています。

 マウスの実験結果を人間に当てはめるには慎重な判断が必要ですが、今回の研究成果は、今後人間にとって快適で健康な生活環境を、安全で安心に実現するうえで、音環境などの情報環境の適切な設計、設備の重要性を示しています。
 また、様々な精神や神経の疾患などに対して、情報環境を整え、情報処理の側面からアプローチする「情報環境医療」の開発に役立つと考えられます。