肝機能の悪化は亜鉛とセレンの欠乏が原因!

体の抗酸化力低下で肝硬変・肝がんの発症リスク大

香川県立保健医療大学保健医療学部臨床検査学科教授 
樋本尚志

肝臓で炎症が起こると活性酸素が発生し亜鉛とセレンが欠乏して線維化が進行

[ひもと・たかし]

1994年、香川医科大学大学院修了。医学博士。2000年、香川医科大学第3内科助手、2005年、同大学医学部附属病院総合診療部学内講師、2009年、同講師を経て、2014年より現職。主な研究分野は、自己免疫性肝疾患の病態解明や肝疾患における微量元素の代謝異常。日本肝臓学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医。

 私はこれまで、C型肝炎の患者さんの血液中に含まれる亜鉛やセレンの濃度に関する研究に取り組んできました。その結果、「肝臓病の患者さんこそ亜鉛とセレンが大切」という結論に達したのです。

 肝臓で炎症が起こると、抗酸化作用に優れたセレンが大量に消費され、欠乏していきます。その結果、肝臓の炎症が慢性化し、さらなる肝機能の低下を引き起こすのです。

 肝機能の1つに、アルブミンの合成が挙げられます。アルブミンは血液中のたんぱく質の50~65%を占め、血液の量や体内の水分量を調整する重要な働きを担っています。肝臓の合成能が低下すると、低アルブミン血症を招きます。

 アルブミンは亜鉛と結合して血液中を循環しています。しかし、アルブミンが不足した状態では、亜鉛はアルブミンの代わりにほかのアミノ酸と結合し、尿中に排泄されてしまうのです。

肝硬変が進行すると過剰な活性酸素を除去する必要があるため、抗酸化物質であるセレンが消費されて血中濃度が低下する

また、亜鉛は体内に存在する多くの酵素の働きを補助して、全身の代謝機能を活性化させています。体内の亜鉛が欠乏すると、抗酸化作用にかかわる酵素の働きが低下します。その結果、異常発生した活性酸素(酸化ストレス)によって、肝臓がさらに障害を受けてしまうのです。

 活性酸素の酸化ストレスによって悪化する肝臓の炎症は、抗酸化作用を支えるセレンの欠乏から始まると考えています。酸化ストレスによってセレンが消費され、その後亜鉛の欠乏につながり、さらなる肝機能低下が生じるという悪循環に陥ってしまうのです。

C型肝炎の患者が亜鉛濃度の低下に伴いセレン濃度も低下する新発見を世界に発表

肝臓の炎症は、抗酸化作用に優れたセレンと代謝機能を支える亜鉛の欠乏につながるため、互いの血中濃度は比例する
出典:『Himoto.T et.al Nutrition Research 2011.31.829-835』から改変

 C型肝炎の患者さんは、肝炎が持続するにつれて肝臓の線維化が進行し、肝硬変に進展します。私たちの研究グループでは、線維化の進行により、血液中の亜鉛濃度が低下することを確認しました。

 さらに、C型肝炎の患者さんの血液中の亜鉛濃度の低下に伴って、血液中のセレン濃度も低下することも明らかにしています(亜鉛とセレンの血中濃度は比例する参照)。C型肝炎の患者さんの血液中のセレン濃度が低下することは、私たちの研究グループが世界に先駆けて発表した新発見といえるでしょう。

 私たちの研究グループは、C型肝炎の患者さんに亜鉛を補充することで、貯蔵鉄の指標となる血液中のフェリチンを減らし、肝臓の炎症が抑えられることも明らかにしました。肝臓に過剰にたくわえられた鉄は、肝炎発症の原因になります。血液中のフェリチンは肝炎や肝硬変、肝臓がんのときに増加し、炎症や線維化、がんを悪化させる原因になると考えられています。このように、血液中のフェリチンは、血液中の亜鉛濃度が増えると減り、逆に亜鉛濃度が減ると増える関係なのです(亜鉛とフェリチンの関係参照)。

貯蔵鉄の指標で活性酸素の過剰を招くフェリチンは、血液中の亜鉛濃度が増えると減り、逆に亜鉛濃度が減ると増える
出典:『Himoto.T et.al Experimental and
Therapeutic Medicine 2010.1:707-711』から改変

 フェリチンは、鉄欠乏性貧血の診断材料として知られています。鉄欠乏性貧血と診断されて鉄剤を長期に服用している患者さんは、知らない間に鉄が過剰になって肝炎を招く可能性を否定できないので、十分な注意が必要と考えられます。

 以上の結果からも、亜鉛やセレン、フェリチンが、肝臓病といかに密接な関係であるかがわかっていただけたと思います。

 肝臓専門医としての私の仕事は、肝機能が悪化している患者さんを治療することです。しかし、肝臓病を予防することも非常に重要と考えています。食事で亜鉛やセレンの摂取量を増やしながら、治療の一翼を担う期待が持てる医学的根拠のある健康食品をとることは、肝機能の改善に役立つでしょう。