私の元気の秘訣

若者たちからもらう「ありがとう」の言葉と笑顔が、私の心と体を健康にしてくれます

教育評論家 
水谷 修

非行や心の病など、青少年が抱える問題の解決に26年以上にわたって取り組んでいる水谷修さん。夜の街で少年少女たちを見守る姿から〝夜回り先生〟とも呼ばれ、テレビのコメンテーターや大学教授としても活躍されています。
還暦を迎えた現在も精力的に活動を続ける水谷さんに元気の秘訣を伺いました。

若者たちと信頼関係を築くために繁華街で〝夜回り〟を続けました

[みずたに・おさむ]

1956年、神奈川県横浜市生まれ。上智大学文学部哲学科を卒業後、1983年に横浜市立高校教諭に就き、2004年9月に退職。在職中から現在も、青少年の非行防止や薬物汚染の拡大防止のために〝夜回り〝を行いながら、メールや電話相談を受けつけている。花園大学客員教授。2014年から『ワイド!スクランブル』(テレビ朝日系)でコメンテーターとして出演中。

 私のもとには多くの若者たちから「死にたい」「毎日がつまらない」「家や学校に居場所がない」という、悩みや助けを求める声が届きます。多いときは1日に1000件以上、かかわった若者の総数は44万人以上になります。

 教員を志したのは、世の中をよくするには社会や体制を変えるのではなく、人が変わることが重要と考えたからです。

 最初に赴任した高校は地元でも有名な進学校で、やりがいや手ごたえを感じながら、充実した毎日を送っていました。10年ほどたったある日、定時制高校で同じく教員をしていた友人が「うちの生徒は腐っている。教えることなど何もない。だから教師を辞める」と相談してきたんです。私は怒りに震えました。「子どもたちをそうさせたのは大人や社会じゃないか!」というと、彼に「進学校の教員をしているおまえに何がわかるんだ」といわれました。「ならば俺も定時制高校で教員をやってやる」と宣言した私は定時制高校に移りました。35歳のときでした。

 赴任した当初は驚きの連続でした。その高校は、地元の人から暴力団員養成学校と揶揄されるほど荒れていたからです。教師の話を聞く生徒は一人もいません。教育以前に生徒と人間関係をつくる必要があると考えた私は、生徒が集まる場所に足を運ぶようになりました。実際に夜の繁華街や暴走族の集会などを訪れると、非行や薬物汚染、貧困やいじめといった問題を抱える子どもたちが想像以上に多くいることを知りました。

路地裏の落書きにはそれぞれ意味があると話す水谷さん

 私は教員として、また一人の大人として、若者たちの力になろうと、自分ができる精いっぱいの助言やサポートを行うようになりました。もちろん、偉ぶったり、叱ったりすることはしません。若者たちに「どうした、大丈夫か。早く家に帰れよ」と、声をかける活動を続けているうちに〝夜回り先生〟と呼ばれるようになりました。

 夜回りを終えて帰宅するのは深夜です。家に着いてからメールや電話で若者たちからの相談に応じる毎日なので、睡眠時間は2~3時間。食事もおなかがすいたら軽く食べるだけで、生活はめちゃくちゃです。健康診断や予防接種は受けたことがありませんが、体調が悪いと感じたことはほとんどありません。
「心身一如」という言葉をご存じでしょうか。心と身(体)は一つであり、どちらかが不調だと、もう一方も不調になるという仏教の教えです。心が健康であれば体も健康なのです。

子どもや親に心の健康の大切さを伝える〝いのちの授業〝を全国各地で行っている

 心を健康にするために哲学や禅、剣道に取り組んだ私は、何があっても動じない不動心を手に入れました。もう一つ、私の心を健康にしてくれるのは、若者たちからもらう「ありがとう」の声です。

 幼いころに患った小児結核の影響で、私の肺活量は一般の人よりかなり少ないです。逆に心拍数は多いので心臓にかかる負担が大きく、医師から「40歳ごろに健康障害が起こるだろう」といわれていました。その後、まさに40歳になったときに胸腺リンパ腫と診断されました。

 私には不動心があったので、あせったり悩んだりしませんでした。病気を受け入れ、淡々と治療を行いました。いまでも年に数回、胸やけやみぞおちが痛むことはありますが、日々の生活に支障はありません。

 56歳のときには、胃に7㌢大の腫瘍が3つも見つかり、胃がんと診断されました。医師から胃を全摘する必要があるといわれたとき、私は「自分の体よりも子どもたちを助けるために多くの時間を使いたい。とにかく早く治してほしい」と伝えました。

いまを懸命に生き人のために時間を使うことで健康になれる

『少数異見「考える力」を磨く社会科ゼミナール』
(日本評論社、1,400円+税)
いま、この社会で、どう生きるか。日本が直面している深刻な社会問題を通して、「考える力」の具体的な磨き方を水谷さんが徹底解説している話題の1冊です。

 内視鏡を使った手術は、すぐ退院できるように麻酔なしで行われました。そのため、普通の人であれば数週間入院するところ、私は5日間で退院。すぐに夜回り活動を再開しました。以後、胃を4回、大腸は3回ほどがんに関する手術を受けていますが、いまもこうして生きています。

 私のもとには若者だけでなく大人からも相談があります。どちらもアドバイスは同じです。とてもシンプルで「他人のために何かをしてごらん」「太陽、青空、花などの美しいものを見てごらん」と伝えています。人から深謝されることや自然の中にある美しいものを見ることは、心を癒やし、自身に力を与えてくれます。心を先に健康にすれば、体も健康に近づくのです。

 私のアドバイスを実践した約9割もの人が心と体の健康を取り戻し、いまを生きようと立ち直っています。これは私自身にも当てはまります。若者たちからもらう「ありがとう」という言葉と笑顔が、心にいい影響を及ぼしていることを、いつも肌身で感じています。

 もう一つ強くいいたいのは、死を恐れないことです。人はいつか必ず死にます。死を恐れることに意味はありません。恐れたり悩んだりすることに時間を使わず、いまを懸命に生きることが大切なのです。自分の時間を少しでも他人のために使い、「ありがとう」といわれることが、自身の心を癒やし、体を健康にしていくのだと思います。がんの私が元気でいられるのも、きっと、心の健康が体の免疫力を高めているからだと思っています。

 私にとって未来に目標はありません。いままでどおり、困っている若者たちの力になる、その瞬間に力を注ぐだけです。元気を取り戻した若者たちからの「ありがとう」と笑顔を糧として、これからも毎日生きていきます。