早期発見と治療が大切で血清クレアチニンの数値や尿の異変を見逃さないようにしよう

JCHOうつのみや病院院長/自治医科大学名誉教授
草野英二

成人の8人に1人が慢性腎臓病で毎日尿チェックを行えば早期発見ができる

[くさの・えいじ]

1974年、東北大学医学部卒業後、北里大学で研修。1976年、自治医科大学に赴任後、1981年から2年間、米国メーヨクリニックに留学。1993年、自治医科大学腎臓内科学助教授。2002年、同大学教授。2015年から名誉教授。日本腎臓リハビリテーション学会監事、栃木県透析会理事を務める。

 社会の高齢化に伴い、腎臓の働きが低下する慢性腎臓病(CKD)の患者さんが増えています。日本腎臓学会の報告によれば、国内の慢性腎臓病の患者数は約1330万人で、成人の8人に1人にも上ります。高齢になると罹患率は高くなり、70代以上の男性の約3割が慢性腎臓病といわれています。

 慢性腎臓病が怖いのは、自覚症状が出たときにはかなり進行してしまっていることです。自覚症状が現れにくい理由の1つには、腎臓の構造が関係しています。

 腎臓には、ネフロンと呼ばれる小器官が、約100万個もつまっています。ネフロンは、糸球体(毛細血管が網目状にからまって構成されている器官)と、尿細管から構成されています。

 血液中の有害物質や老廃物がネフロンでろ過・排泄されることで、私たちは健康を維持することができるのです。左右合わせて200万個もある腎臓のネフロンは、ある程度壊れても残りのネフロンが機能をカバーするため、全体としての腎機能は維持されます。一般的には、腎機能が30%程度まで低下しないと自覚症状が現れません。

糸球体ろ過能力早見表(女性用)

 30歳のときの腎機能を100%とすると、健康な人でも1歳年を取るごとに1%ずつ機能が低下するといわれています。健康な人でも、90歳になると腎機能は40%に低下してしまうのです。この状態ではネフロンの数も減少しており、老廃物を尿から排泄することが十分に行えなくなります。すると、残りの正常なネフロンへの負担が加速度的に増え、やがて末期の腎不全に至ってしまうのです。

 慢性腎臓病は、早期発見が何よりも大切です。自覚症状がなくても、毎年1回は健康診断を受けるようにしましょう。慢性腎臓病と診断されるのは、次の①②のいずれか、または両方が3ヵ月以上続いた場合です。

①尿検査でたんぱく尿1+以上、血尿1+など
②糸球体ろ過量(GFR)が60未満

 尿のたんぱくや血尿の検査は、腎臓に血管障害や炎症があるかどうかを調べるものです。血管障害や炎症があると、本来なら漏れないたんぱく質が尿中に出てしまいます。

糸球体ろ過能力早見表(男性用)

 たんぱく尿は、濃度によって「-」「+-」「1+」「2+」「3+」「4+」の6段階があります。正常範囲は「-」「+-」です。「+」の数字が大きくなるほど尿に含まれるたんぱく質の濃度が高く、腎臓の血管障害や炎症の程度が強いことを示しています。

 糸球体ろ過量とは、1分間にすべての糸球体によってろ過される血漿量のことです。糸球体ろ過量の数値を調べるには、血清クレアチニン値をもとに推測する計算法を用いて、推算糸球体ろ過量(eGFR値)を算出します。クレアチニンとは、筋肉中の成分が代謝されてできる老廃物の1つです。クレアチニンは、一定の量が常に尿として排泄されます。

 慢性腎臓病の病期は、推算糸球体ろ過量によって、G1~G5までの6段階に分けられます(G3はaとbに区分け)。糸球体ろ過量を調べるには複雑な計算が必要ですが、日本腎臓学会が作成した「糸球体ろ過能力早見表」を用い、性別・年齢・血清クレアチニン値をあてはめれば腎機能の状態を知ることができます(「糸球体ろ過能力早見表」を参照)。

血尿と消えにくい泡は慢性腎臓病の危険大で尿の量・回数の増減も機能低下のサイン

たんぱく尿検査と血清クレアチニン値からわかる推算糸球体ろ過量(eGFR値)で、腎機能の状態は6段階に判定できる

 慢性腎臓病の発症率は高齢になるほど上昇します。さらに、肥満やメタボリック症候群、糖尿病、高血圧といった生活習慣病も慢性腎臓病を発症させる危険因子です。肥満とは反対に、やせすぎもリスクを高めるという説もあります。

 慢性腎臓病の進行を抑えるには早期発見・早期治療が非常に重要です。健康診断を受けることはもちろん、日ごろから自分の体が出している〝小さなサイン〟を見逃さないようにすることが大切です。

 具体的なサインとして、尿の異常やむくみ、疲労感、貧血、息切れ、手足のしびれ、短期間での5㌔以上の体重増加、夜間頻尿などがあります。ただし、疲労感や貧血、息切れ、手足のしびれ、体重の急増といった自覚症状は、必ずしも慢性腎臓病と関連づけられているわけではありません。そこで私がおすすめしたいのが、日常的に尿の色をチェックすることです。排泄される尿を観察すれば、腎臓が正しく働いているかどうかを間接的に判断することができます。

 糸球体で作られる原尿は、1日あたり約150㍑という膨大な量になります。原尿は尿として膀胱にためられるわけではなく、ネフロンを構成する尿細管で塩分やたんぱく質などの再吸収や水分量の調節が行われ、最終的に排泄される尿は、1日あたり約1.5㍑です。

自分でできる尿チェック

 尿の異常をチェックするときのポイントは「色」「量」「回数」です。健康な状態の尿は、透明感のある黄色でにごりがなく、においは軽いアンモニア臭です。腎臓に異常が現れると尿が赤褐色や茶褐色になることがあります。いわゆる血尿が疑われますが、血尿の原因は慢性腎臓病だけではなく、尿路結石や膀胱炎、尿路系腫瘍などもあります。いずれにしても、血尿が疑われる尿が出たら、すぐに腎臓内科・泌尿器科専門医の診断を受けるようにしてください。

 たんぱく尿は排泄したときに泡立つのが特徴です。しかし、体調が悪かったり、アルコールを飲みすぎたりしたときも尿が泡立つことがあります。ポイントは、どれくらいの時間で泡が消えるかです。排尿から1~2分後に泡が消えれば問題はありません。ビールの泡のように消えずにずっと残るような泡立ちであれば、たんぱく尿が疑われます。

 健康な人の尿の量は1日約1.5㍑ですが、腎機能が低下すると「乏尿」といって0.4㍑以下しか尿が出ないこともあります。尿の量が極端に少なかったり、出なくなったりすると、脱水を代表とする急性腎障害をはじめ、前立腺肥大症やがんなどで膀胱から尿道へ流れる途中で尿路が閉塞していることも考えられます。逆に尿の量が多くなると、尿崩症や尿細管の異常、糖尿病の疑いがあるので、尿の量も毎日チェックするように心がけてください。正常な尿の量の目安は、1回の排尿につき200~300㍉㍑です。

 1日あたりの尿の回数は、健康な人の場合、昼間に4~5回、夜間0~1回程度です。極端な回数の増減が出たら注意が必要です。慢性腎臓病に起因する頻尿・多尿で高齢女性に多く見られるのが、夜間に尿意を感じる回数が増えたり多尿になったりするケースです。日中は活動しているため、血液は全身をめぐっていますが、夜間の就寝中は腎臓へ流れ込む血液量が多くなります。しかし、腎機能が低下して尿を濃縮する働きが衰えると、尿の量が増えて夜間頻尿を起こしてしまうのです。

 一方、男性の夜間頻尿・多尿は、腎機能の低下に加えて、前立腺肥大症も原因の1つとして考えられます。1日あたり10回以上の頻尿に悩まされたら、すぐに腎臓内科・泌尿器科専門医を受診してください。