股関節症に有効な治療法としてジグリングに期待大!脚を小刻みに動かせば激痛軽減

久留米大学医療センター整形外科・関節外科センター教授
大川 孝浩

原因不明の腰・ひざの痛みは変形性股関節症が疑われ60代以降で発症する患者が増加中

[おおかわ・たかひろ]

1990年、久留米大学大学院医学研究科修了。済生会二日市病院整形外科部長、久留米大学医学部整形外科講師、米国・べーラー医科大学への研究留学、久留米大学医学部整形外科准教授を経て、2015年より現職。日本整形外科学会専門医・リウマチ医。主な著書に『変形性股関節症は自分の骨で治そう!』(共著、メディカ出版)などがある。

 慢性的な腰痛や原因不明のお尻・ひざの痛み、脚の部位が特定しにくい違和感などを経験したことがあるという方も多いのではないでしょうか。歩きだすときやイスから立ち上がるとき、長時間歩いた後などに足のつけ根やお尻、太ももの前面からひざのあたりに違和感や痛みを覚えるという方は、もしかすると、変形性股関節症かもしれません。

 変形性股関節症は、股関節の関節軟骨がすり減ることによって起こる病気です。主な原因は股関節の形状の異常や老化で、股関節の軟骨がすり減って痛みや炎症が生じます。

 股関節は、両脚のつけ根にある、人体の中でも大きな関節です。上半身と下半身をつなぎ、体のかなめともいえる中心部分です。体を曲げたり反らしたりするほか、立ったり座ったり歩いたりするさいの起点にもなって、全身のバランスを保つ重要な役割を果たしています。

 人間の股関節は、おわん状の骨盤のくぼみ(寛骨臼)に、ボール状の脚の骨(大腿骨頭)がはまった状態になっています。正常な股関節では、大腿骨頭の直径の80%近くが寛骨臼で覆われています。

 寛骨臼と大腿骨頭の表面は、関節軟骨という弾力性のある組織で覆われ、関節液で満たされた関節包に包まれています。関節軟骨というクッションと、関節液という潤滑油のおかげで、股関節の滑らかな動きが可能となるのです。

 変形性股関節症は大きく2つの種類に分けられます。股関節に形状の異常がなく、特別な病気を伴わないものを「一次性」と呼びます。老化や肥満などで発症し、欧米ではほとんどが一次性といわれています。

 一方、股関節の形状の異常やなんらかの病気に伴うものを「二次性」と呼びます。生まれてまもない乳児期に股関節が外れた状態(発育性股関節脱臼)だったり、股関節が不完全な形状(発育性股関節形成不全)だったりするなど、骨・関節の異常や外傷が原因で発症します。

 日本では圧倒的に二次性が多く、40~50代の女性が発症しやすいと考えられています。しかし現在では、発育性股関節脱臼や発育性股関節形成不全の治療がしっかりと行われるようになり、二次性の患者さんは減少傾向にあります。その一方で、高齢化が進み、60代以降で発症する一次性の患者さんが増えています。

股関節症の治療は病期にかかわらずまずは保存療法を行うのが一般的

変形性股関節症の4つの病期

 変形性股関節症は4つの病期に分けられ、「①前股関節症→②初期→③進行期→④末期」と徐々に症状が悪化していきます(「変形性股関節症の4つの病期」の図参照)。関節軟骨のすり減りが進むと、骨と骨が直接ぶつかるようになり、股関節が変形していきます。治療をせずに放置しておくと症状が進行し、慢性的な痛みのために歩行が困難になり、股関節の可動域(動かすことができる範囲)も制限されて日常生活にさまざまな支障をきたすようになります。

 変形性股関節症の治療は、手術と手術以外の治療法の2つに大別されます。手術以外の治療法は保存療法と呼ばれ、薬物を用いる薬物療法と薬物を用いない理学療法に分けられます。

 理学療法は、運動や温熱、電気などの物理的な手段を利用して、運動機能を回復・改善する治療法です。靴や足底板(靴に入れる治療用の中敷き)、サポーターなどを利用する装具療法や、日常生活での指導(杖の使用や減量、股関節への負荷の少ない姿勢・立ち上がり方・座り方といった動作のアドバイス)なども含まれます。

 変形性股関節症では、病期にかかわらず、まずは保存療法を行うのが一般的です。日常生活を送るうえでの注意事項を守って関節の保護に努めながら、痛みを伴わない程度の運動療法を続けて筋力や関節の動かせる範囲を保っていくことが重要なのです。

 近年、運動療法の中でも、私どもが有効だと考え、患者さんに推奨しているのが「ジグリング(貧乏ゆすり様運動)」です。ジグリングは、井上明生先生(久留米大学名誉教授、柳川リハビリテーション病院名誉院長)が提唱されている、変形性股関節症の保存療法です。かつては不可逆的に進行する一方だと考えられていた変形性股関節症ですが、ジグリングで改善する可能性があることがわかってきました。

 変形性股関節症は、レントゲン写真を見れば、軟骨のすり減っている程度が確認でき、進行の度合いがわかります。これまで、手術に頼らない保存療法によって、変形性股関節症が改善したことを示すレントゲン写真はほとんどありませんでした。つまり、変形性股関節症の改善に有効といえる保存療法はなかったのです。

 ところが、保存療法の一環として、ジグリングを積極的に患者さんに実践してもらったところ、痛みが消え、すり減った股関節の軟骨が再生した改善例が認められるようになったのです。

 ジグリングは、関節に負荷をかけない「小刻みな摩擦運動」です。血管やリンパ管、神経がない関節軟骨では、栄養補給は関節液によって行われ、関節の運動によって促されます。そのため、ジグリングを行うと関節液が絶えず循環して関節軟骨に栄養が行き渡るようになり、股関節の軟骨の再生が促されると考えられるのです。

ジグリングはほとんど副作用がなく簡単に行える画期的な治療法として期待

ジグリング(貧乏ゆすり様運動)のポイント

 ジグリングは、人工関節置換術を受ける前であれば、老若男女・病期を問わず、誰でも行うことができます。ただし、ジグリングを行うことで痛みが悪化するようであれば、ジグリングを行うことなく安静にするようにしてください。

 保存療法としてはもちろん、関節温存手術後のリハビリや再発例の改善にも有効なケースもあります。たとえ人工関節置換術を受けることが決まっていたとしても、手術を受ける前の経過観察中に行えば、痛みなどの症状が軽減する可能性もあります。副作用の心配も少なく、股関節のすき間を広げ、長期的に変形性股関節症の症状を改善することが期待できるジグリングは、保存療法のかなめとなる可能性を秘めた治療法として期待されています。

 股関節周辺に感じる痛みは、さまざまな原因で起こります。病院で一度検査しただけでは異常が見つからないこともあります。歩いているときや体重をかけたときに股関節の前部が痛むようであれば、変形性股関節症の疑いがあります。検査で「異常なし」と診断されたとしても、痛みや違和感が続く場合は、かならずくり返し病院にかかるようにしてください。

 変形性股関節症は、適切な時期に適切な治療を受けることがポイントです。担当の医師からしっかりと話を聞いてコミュニケーションを取り、自分の病状に合った最適な治療を選択することが大切です。セカンドオピニオンを求めることもできますので、不安な場合は活用するといいでしょう。