地域ブランド化に大成功!〝春日井サボテン〟で生活習慣病を防ぐ

名城大学農学部 栄養・食品学研究室教授
小原彰裕

伊勢湾台風の大被害を機に転作し栽培が普及

春日井サボテンにアレルギーなど生活習慣病を改善する働きがあると判明

 現在、国内でサボテン生産量の第1位を誇るのは、名古屋市の北隣にある愛知県春日井市です。春日井市とサボテンの関係は古く、1953年前後に、サボテンに魅せられた市内の果樹栽培農家が、副業としてサボテン栽培を始めたのがきっかけです。

 6年後の1959年9月に、愛知県や三重県に甚大な被害をもたらした伊勢湾台風が襲来し、春日井市の果樹栽培はほぼ壊滅してしまいました。サボテンの栽培にはめどが立ちつつあったので、多くの農家が思い切って果樹からサボテン栽培に転換。以後、サボテンが春日井市で広く栽培されるようになったのです。

 ほとんどが多肉植物(葉や茎、根に水を蓄えられる植物)であるサボテンは1万種以上も存在するといわれていますが、春日井市で栽培されているのは主にウチワサボテンの一種です。ウチワサボテンだけでも200種類以上あり、原産地のメキシコでは食品としても活用されています。食用に使われるのは、とげが少なく肉厚で平らな茎を持つもので、サラダやステーキなどにして食されています。

 サボテンは伝統的な民間薬としても利用されてきました。16世紀からやけどの外用治療や糖尿病・脂質異常症の内服治療に使われていたことがわかっています。1970年代後半からは、糖尿病に対する動物実験や臨床試験が始まりました。ウチワサボテンの中には、茎の抽出物が血糖値を下げる作用を持つことが明らかになったとの報告もあります。

高血糖や脂質異常、アレルギーにも有効

春日井サボテンから複数の方法で成分を抽出して変異原物質に加えたところ、突然変異を引き起こす働きが抑制された

 春日井市でのウチワサボテン栽培は、農林水産省の「農林水産物・食品地域ブランド化支援事業」に採択され〝春日井サボテン〟のブランド化が進められています。春日井市では、ウチワサボテンを観賞用だけではなく、アイスクリームやあめ、健康食品などに活用しています。

 種類によって異なりますが、サボテンには食物繊維やフラボノイド、カロテンやビタミンC・K・B1・B6・葉酸などのビタミン類、ナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウムなどのミネラル類が含まれています。

 豊富に含まれるこれらの栄養素によって、高血糖・高コレステロール値の改善や血流改善、動脈硬化を抑える働きが期待できます。そのほか、整腸作用や疲労回復・精神安定などの働きもあると考えられています。

 春日井サボテンにもさまざまな生理活性があると考えた私たちが研究に取り組んだ結果、以下の働きが確認できました。

● 細菌の突然変異を抑える

 発がん物質の9割は細菌に突然変異を誘発させます。一方で、細菌に突然変異を引き起こす物質の9割はがんを誘発することがわかっています。細胞に突然変異を引き起こす物質を「変異原物質」といい、がんの発症と密接にかかわっていると考えられます。

 春日井サボテンから複数の方法で成分を抽出して変異原物質に加えたところ、突然変異を引き起こす働きが抑制されました。抽出法や濃度によっては、7割以上も抑えられていました。

マウスに春日井サボテンの凍結乾燥物を与えた結果、アレルギー性皮膚炎の症状が抑えられた

● アレルギー症状の抑制

 量を変えながら春日井サボテンの凍結乾燥物を1日1回、マウスに与えました。7日後にアレルギー性皮膚炎を発症させ、24時間後と48時間後に観察しました。

 すると、春日井サボテンの凍結乾燥物を与えたマウスは何も与えなかったマウスに比べて、アレルギー症状が抑えられていました。

● 抗酸化・免疫力増強作用

 春日井サボテンには「フェルラ酸β‐D‐グルコースエステル」という、抗酸化作用を持つ成分が含まれていることがわかりました。さらに、免疫細胞の受容体を刺激して免疫力を増強する働きも確認できています。

 以上の結果から、春日井サボテンは、血糖値を下げる働きは確認できなかったものの、がんをはじめとする生活習慣病を防ぐ働きを持っている可能性があるとわかってきました。今後、必要な量や適切な食べ方、人間に対する有効性などの研究が進めば、健康維持・改善に役立つ機能が明らかになっていくでしょう。