慢性腎臓病は閉塞性動脈硬化症を併発しやすく壊疽・潰瘍によって足切断の危険大

横浜総合病院創傷ケアセンター長/心臓血管外科部長
東田隆治

糖尿病が進行して閉塞性動脈硬化症になると血流がさらに悪化し壊疽を招く

[ひがした・りゅうじ]

石川県生まれ。1989年、金沢大学医学部を卒業後、東京女子医科大学第二病院(現・東医療センター)、米国コロラド大学留学、滋賀医科大学勤務を経て現職。血管外科医として、足の診療所(東京都渋谷区)でも診察を行う。3学会構成心臓血管外科専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本外科学会外科専門医、日本下肢救済・足病学会評議員。

 私が勤務する横浜総合病院創傷ケアセンターは、壊疽をはじめとした難治性の足の傷を治療する専門外来です。壊疽とは、血流の悪化で酸素や栄養が行き渡らなくなったり、細菌に感染したりすることで細胞が壊死を起こした結果、組織が腐敗した状態をいいます。壊疽の治療は難しく、最悪の場合は足の切断も考えなければなりません。

 創傷ケアセンターを訪れる人のほとんどは糖尿病を患っています。入院している糖尿病患者さんの2割は、糖尿病性腎症のために人工透析を受けています。私の臨床経験では、透析を受けている患者さんの壊疽の治療は、ほかの患者さんよりも難しいばかりか、足の切断に至る危険性が高いと感じています。

 糖尿病患者さんの壊疽が重症化しやすい理由として、閉塞性動脈硬化症を合併しやすいことが挙げられます。閉塞性動脈硬化症は、血管が狭くなったり(狭窄)、つまったり(閉塞)して血流が悪化し、細胞や組織に酸素が届きにくくなる症状です。

 健康な人でも加齢に伴い動脈硬化が起こりますが、糖尿病の患者さんは動脈硬化の進行が健康な人よりも早い傾向があります。動脈硬化が進行すると、閉塞性動脈硬化症が起こります。

 閉塞性動脈硬化症が発症しやすいのは、心臓から遠く、血流障害の起こりやすい「足」です。足は、特に壊疽が起こりやすい場所でもあります。

 健康な人ならすぐ治るような足の傷も、閉塞性動脈硬化症の患者さんの場合は、傷を治すために必要な酸素や栄養が行き届きません。細胞は虚血(組織への血液供給が急激に不足する状態)となり、壊疽が起こりやすくなるのです。

 閉塞性動脈硬化症と神経障害が併発しやすいことも、壊疽が起こる理由の1つです。糖尿病は重大な合併症を引き起こし、糖尿病性神経障害・糖尿病性網膜症・糖尿病性腎症は3大合併症と呼ばれています。3大合併症のうち、最も早く現れるのが神経障害です。

 糖尿病性神経障害になると、手足のピリピリした痛みやしびれを感じるほか、足裏の感覚が徐々に失われるようになります。さらに進行すると、感覚神経のみならず、自律神経(意思とは無関係に内臓や血管の働きを支配する神経)や運動神経まで障害されます。閉塞性動脈硬化症の患者さんにも合併しやすく、痛みやしびれを感じない患者さんは、症状のある患者さんの3倍にも上るといわれています。

 運動神経が障害されると、足の筋肉がうまく働かなくなり、足指や足裏に不自然な圧力がかかるようになります。すると、タコや魚の目、靴ずれなどのケガが起こります。さらに感覚神経が鈍くなると、足などに傷ができたことにすら気づかなくなります。すると、放置された傷が悪化したり、細菌に感染したりして壊疽へ進展します。

足の筋肉を鍛えて変形を阻止するアキレス腱ストレッチで壊疽・切断を回避

「アキレス腱ストレッチ」のやり方

 糖尿病が進行した患者さんは、血糖値が常に高くなっています。高血糖状態は、免疫機能を担っている白血球の働きを弱らせます。そのため、感染症が治りにくくなり、壊疽にまで重症化してしまうのです。

 糖尿病が進行すると、最終的に糖尿病性腎症を合併します。糖尿病の合併症である閉塞性動脈硬化症を合併することが多く、糖尿病性腎症の患者さんは壊疽にも注意が必要です。

 壊疽の治療で大切なのは、原因を明らかにして適切な治療を受けることです。しかし、足の治療に関する医師の知識不足から、すぐに切断という手段を選ぶ場合が多いのが現状です。

 足を切断した患者さんの生活の質(QOL)は著しく低下します。壊疽を起こすということは動脈硬化が大幅に進行している証拠でもあり、足の切断手術を受けた患者さんの5年生存率は約30%といわれています。

 足の切断を回避することはもちろん、壊疽を起こさないようにすることが大切です。まずは、感覚を鈍らせる神経障害の早期発見が重要です。傷を作らないように、室内では靴下とスリッパを着用しましょう。神経障害がある方はやけどをしないように、湯たんぽやお湯の温度には注意してください。網膜症の方は、爪を自分で切らないようにしましょう。動脈硬化を促進する喫煙は、もちろん厳禁です。

 糖尿病にかかっている人は、壊疽を予防するため、足に腫れ・皮膚の赤み・水ぶくれ・傷がないか毎日観察してください。イスに座り足もとに鏡を置けば、足を抱える必要もありません。

 足のケアの1つとして、「アキレス腱ストレッチ」がおすすめです(「アキレス腱ストレッチ」のやり方の図参照)。アキレス腱は足の裏にある筋肉にもつながっています。足裏の筋肉を鍛えることによって筋肉の萎縮から発生する足の変形を阻止し、変形によって生じる傷の防止につながります。

 最近では、足の治療を専門に行う「フットケア外来」が増えています。糖尿病と診断されたら、足のケアができる医師や医療機関を見つけておくことが大事です。できるだけ早いうちに、正しいアドバイスを受けられる態勢を整えておきましょう。