慢性腎臓病が進行すると元には戻らない! 毎日の尿検査と健康診断の数値で早期発見

東京慈恵会医科大学教授・臨床研究センター長
川村哲也

腎腎臓の機能は一度低下すると改善が難しく末期まで進行すると人工透析が必要になる

[かわむら・てつや]

1979年、東京慈恵会医科大学卒業。2013年より現職。慢性腎臓病の臨床と研究にたずさわるほか、患者さんのための腎臓病教室を開催するなど、慢性腎臓病に関する知識の啓蒙にも努めている。監修書に『図解でわかる腎臓病』『腎臓病に効くおいしいレシピ2週間メソッド』(ともに主婦の友社)。

 日本腎臓学会が発表した『CKD診療ガイド2012』によると、日本における慢性腎臓病(CKD)の患者数は1330万人。成人の8人に1人が該当します。そのうち、治療が必要な患者さんは約600万人と考えられているものの、治療を受けないまま過ごしている人も少なくありません。

 慢性腎臓病は、糖尿病腎症、IgA腎症などの慢性糸球体腎炎、高血圧による腎障害(腎硬化症)など、慢性的に腎機能が低下している腎臓病の総称です。一度悪くなってしまった腎機能を取り戻すことはできず、慢性腎臓病が進行して末期の腎不全(腎臓がほとんど機能しない状態)になると、人工透析が必要な状態に陥ります。

 腎不全まで進行して透析治療を受けることになると、毎日の生活における患者さんの負担は大きくなります。医療費高騰の一因にもなっている透析患者数の増加は、大きな社会問題となっています。

 慢性腎臓病と診断されるのは、次の①②のいずれか、または両方が3ヵ月以上続いている場合です。

①たんぱく尿検査で「1+」以上

 腎臓の主な役割は、血液をろ過して血液中の余分な老廃物や水分を排泄させることです。ところが、腎臓のろ過機能に異常が現れると、本来は血液中にとどまるはずのたんぱく質が、尿とともに出てきてしまいます。この状態を「たんぱく尿」といい、有無や濃度によって「-」「+-」「1+」「2+」「3+」「4+」に分けられます。「-」「+-」が正常の範囲内で、「+」の数値が高くなるほど、尿中のたんぱく質の濃度が高いということになります。

自分でできる尿チェック

②糸球体ろ過量(GFR値)が60未満

 糸球体ろ過量とは、1分間に腎臓のすべての糸球体によってろ過される血漿量(血液中の赤血球・白血球・血小板を除いた液体成分の量)のことです。糸球体ろ過量の数値を調べるには、血清クレアチニン値をもとにして推測する計算法が一般的で、推算糸球体ろ過量(eGFR値)といいます。

 クレアチニンは、筋肉の中にあるクレアチン(アミノ酸の1種)という物質がエネルギーとして使われた後に残る老廃物の1つで、常に一定の量が尿中に排泄されます。ところが、糸球体のろ過能力が低下すると、クレアチニンが十分に排泄されず、血液中に残ってしまいます。血液中のクレアチニン濃度が高い場合は、糸球体のろ過機能の低下が疑われます。

糸球体ろ過能力早見表を使えば性別や年齢から腎機能の状態を簡単に把握できる

糸球体ろ過能力早見表(男性用)

 本来、糸球体ろ過量を正しく調べるためには、イヌリンという試薬の点滴と蓄尿が必要です。しかし、日本腎臓学会が作成した「糸球体ろ過能力早見表」に性別・年齢・血清クレアチニン値をあてはめれば、自分の腎機能の状態を簡単に知ることができます(「糸球体ろ過能力早見表」参照)。

 腎機能の程度は、推算糸球体ろ過量によってG1~G5までの6段階に分けられます(G3はaとbに区分け)。60以上(G1、G2)が正常値で、30未満(G4〜G5)になると腎機能が著しく低下した状態と考えられます。推算糸球体ろ過量は性別・年齢・血清クレアチニン値をもとに簡単にチェックできるので、糸球体ろ過能力早見表を確認してみてください。

 慢性腎臓病を早期に発見するためには、慢性腎臓病の症状が出ていないか、ふだんから自己チェックをすることも重要です。

糸球体ろ過能力早見表(女性用)

 
 慢性腎臓病の自覚症状には、尿の異常やむくみ、疲労感、貧血、息切れ、さらに夜間頻尿が挙げられます。しかし、腎臓は肝臓とともに「沈黙の臓器」といわれ、G1~G3の病期までは自覚症状がほとんど現れません。

 毛細血管の塊といえる糸球体は、ある程度なら破壊されても残りの糸球体が機能を補うため、全体としての腎臓の働きは維持されます。そのため、病期がG4以下になるまで症状が現れないのです。

 自覚症状としてわかりやすいのが、尿の異常です。具体的には、尿が泡立ち、1分以上もビールの泡のように残っている場合は、たんぱく尿の可能性があります。

たんぱく尿検査と血清クレアチニン値からわかる推算糸球体ろ過量(eGFR値)で、腎機能の状態は6段階に判定できる

 尿に血液が混じり、赤褐色やコーラのような茶褐色に見えるときも慢性腎臓病の疑いがあります。特に、のどの痛みを感じた後にコーラのような色の尿が出たら、慢性腎臓病の1つであるIgA腎症が疑われます。慢性腎臓病のサインを見逃さないためにも、尿の状態を常に観察するようにしましょう。

 慢性腎臓病になりやすい人の危険因子とされる、高血圧や糖尿病、メタボリックシンドローム、喫煙、慢性腎臓病の家族歴、尿路結石などがあてはまる方は、自覚症状の有無に注意を払ってください。

 自分でできる尿チェックや糸球体ろ過能力早見表で腎機能の低下が疑われる場合は、できるだけ早く泌尿器科や腎臓内科で診察を受けるようにしましょう。