〝マッシュルーム〟のレクチンで原因菌の増殖を抑えて虫歯・歯周病・誤嚥性肺炎を予防!

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科教授
高柴正悟

口腔環境が悪化すると誤嚥性肺炎の危険大

マッシュルームには虫歯や歯周病を予防するレクチンが多く含まれている

 岡山県は年間を通して日照時間が長く、県庁所在地における降水量1㍉未満の日数が全国最多であることから「晴れの国」と呼ばれています。温暖な気候を生かし、全国有数の質の高い農業が営まれてきました。清水白桃やマスカット、ピオーネは生産量・品質ともに全国一を誇り、海外でも〝岡山ブランド〟として高く評価されています。さまざまな特産品の1つが、瀬戸内市で生産されているマッシュルームです。

 マッシュルームは食用として栽培されるハラタケ科のキノコで、全体が白い「ホワイト種」と茶色の「ブラウン種」があります。近年になってマッシュルームの研究が進み、キノコである子実体とその根元である石づきに含まれるたんぱく質に、誤嚥性肺炎の原因となる虫歯や歯周病を予防する働きがあると注目されています。

 口腔内には700種を超える細菌が存在し、歯面ではデンタルプラーク(歯垢)を作っています。プラークの中には、虫歯や歯周病を引き起こす特定の細菌が多種多様な細菌とともに集まって定着しています。

マッシュルームの石づきに含まれるレクチンは対照群と比べ、歯周病の原因となるバイオフィルムの形成率が3分の1になった

 虫歯や歯周病のような口腔内感染症は歯を失う最大の原因であり、全身の健康にも影響を及ぼすことが知られています。現在の主な予防法は歯磨きなどの感染源の除去ですが、十分な対策が行き届いていないのが現状です。例えば、脳梗塞の後遺症によって自分で歯磨きを行うことが困難な方や介護の手が行き届かない方には、誤嚥性肺炎の危険性が増加することが知られています。

 誤嚥性肺炎は、食べ物や飲み物、唾液などが食道ではなく気管に入り、肺に流れ込んだ細菌が増殖することで起こる肺炎です。誤嚥性肺炎は、高齢化社会の進行に伴って大きな問題となっています。

 厚生労働省・平成28年歯科疾患実態調査によると、25~85歳未満の日本人の8割以上は、虫歯を経験したことがあるとされています。さらに、40歳以上の約5割が歯周病を発症していると報告されています。虫歯や歯周病は誤嚥性肺炎ばかりか、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、骨粗鬆症の原因になるなど、全身に影響を及ぼす病気なのです。

 虫歯の予防薬として、フッ素製剤が用いられることが多くあります。フッ素は主に歯の主成分であるハイドロキシアパタイトに対して作用するものであり、細菌感染を抑制する作用は期待できません。

 そこで、プラークというバイオフィルム(微生物によって作られる構造体)形成の初期段階にあたる、初期付着に注目しました。プラークの初期付着を抑えることにより、従来とは異なる方法で細菌感染を予防できると考えたのです。

虫歯や歯周病の原因菌の付着を抑えるとわかった

虫歯菌が付着して形成されたプラークが、マッシュルームのレクチンで増殖が阻害された

 私が歯周病対策として注目した成分は「レクチン」です。レクチンは、植物や動物のほか、ウイルス、微生物、細菌など自然界に広く存在するたんぱく質で、マンノースやガラクトースなどが結合してできた糖鎖と結合する性質があります。レクチンごとにさまざまな特異性を持つため、解明されていない作用が多く、興味深い成分といえるでしょう。

 私は70種類ものレクチンから、虫歯の原因となるミュータンス菌の初期付着抑制作用について調べました。その結果、マッシュルームに含まれるレクチンに、ミュータンス菌の初期付着やバイオフィルムの形成を抑制する働きのあることが判明しました。

 マッシュルームの未利用資源であった石づきに含まれるレクチンの量と活性を調べると、子実体と変わらないことがわかりました。そこで私は、マッシュルームの石づきに含まれるレクチンを用いて、バイオフィルムの抑制効果を調べました。その結果、子実体と同じレクチンの濃度でバイオフィルムの抑制が確認できたのです。

 現在は、実用化に向けた研究を重ねています。マッシュルーム由来のレクチンが、虫歯・歯周病・誤嚥性肺炎の予防の一助になればと願っています。