がんの進行を抑えるには冷えの解消が何より重要!がんになりやすい環境を防ぎ免疫力も向上

サーモセルクリニック研究開発担当/医学博士
奴久妻 智代子

体が冷えると血流が悪化して細胞に酸素と栄養が届かず、低体温を招く悪循環に陥る

[ぬくづま・ちよこ]

北海道大学大学院獣医学研究科修了。医学博士。金沢医科大学熱帯医学研究所(現・総合医学研究所)、大阪大学医学部付属動物実験施設、カリフォルニア工科大学 James H. Strauss 研究室勤務を経て、2000年より全身温熱療法の基礎研究に従事。2015年より現職。所属学会は、日本ハイパーサーミア学会、日本温泉気候物理医学会、日本抗加齢医学会。

 昔から「冷えは万病のもと」といわれています。人間の正常な体温は、体の内部の体温(深部体温)で37度C前後とされています。深部体温を測定するうえで最も正確なのが、腸内の温度を測定する直腸温です。

 一般家庭では、わきの下で測定する腋窩温を測定することが多いと思いますが、この測定方法だと直腸温と比べて約0.8度C低い数値になるといわれています。また、手足や指先など、外気にふれる部位の温度は「外殻温」といいますが、外部環境に左右されて正確な数値がわからないという問題があります。人間の体温には深部体温と外殻温があり、理想的な深部体温は37度C前後ということを覚えておいてください。

 冷えや低体温が病気と関係する大きな要因が、血管の収縮による血流の悪化です。血流が悪くなると、酸素や栄養を運ぶ赤血球が、人体を構成する37兆個あるといわれる細胞のすみずみまで行き届かなくなります。十分な酸素と栄養が届かなくなった細胞では、機能低下を引き起こしてしまうのです。

 冷えや低体温によって血流が悪くなるのか、血流が悪くなって冷えや低体温が生じるのかについては、どちらが先か一概にはいえません。日ごろの食事や運動などの生活習慣が関係しているからです。

 体温がどのように維持されるのかというと、細胞のミトコンドリアという小器官がかかわってきます。ミトコンドリアは、人間が活動するエネルギーを作る発電所にたとえることができます。

 ミトコンドリアは、酸素と栄養を利用してエネルギーを作り出します。ミトコンドリアが作るエネルギーの70%は体温を維持するために使われています。しかし、酸素と栄養が不足すると、ミトコンドリアの働きが衰え、エネルギーが不足した状態が冷えや低体温を招くのです。

 体が冷えると血流が悪くなり、血流が悪くなると体が冷えます。さらに、エネルギーを作るミトコンドリアの働きも悪くなり、より体が冷えてしまいます。

がんが低体温を好むのは増殖を助ける遺伝子が働いて活動しやすい環境が作られるため

体温は深夜から明け方が低く、夕方から夜にかけて高くなる

 冷えや低体温とがんの関係についても、さまざまな研究が進んでいます。興味深い研究成果の1つに、ウサギを使った実験があります。ウサギの耳に発がん性物質のコールタールを塗ってストレスを与えたところ、低体温のウサギにがんが発症しやすいという結果が出ました。同じ条件下でも、正常体温のウサギに影響はなく、低体温のウサギだけにがんの兆候が確認されたのです。

 がんが低体温を好む理由の1つは、「低酸素応答遺伝子」との関連です。低酸素応答遺伝子は、細胞に十分な酸素がない低酸素状態のときに発動する遺伝子です。冷えや低体温によって血流が悪くなり、細胞に酸素が行き届かない状態が続くと、低酸素応答遺伝子が発動するようになります。

 通常、人間の細胞では常にがん細胞の芽が発生し、免疫機能によって排除されることがくり返されています。しかし、低酸素応答遺伝子が発動することによって、がん細胞が増殖しやすい環境が整ってしまうのです。

 低酸素応答遺伝子の1つに「MMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)」があります。MMPとは、結合する細胞と細胞の間を溶かしてすきまを作る遺伝子と考えてください。深部体温が維持され、免疫機能が正常に働いていれば、がん細胞は増殖せずに排除されます。しかし、低体温の状態で酸素が供給されずにMMPが発動すると、結合する細胞と細胞の間を溶かしてすきまを作り、そこにがん細胞が逃げ込んでしまうのです。

 また、「VGEF(血管内皮細胞増殖因子)」という、低酸素応答遺伝子も発動します。VGEFは血管を作る遺伝子です。細胞のすきまに潜り込んだがん細胞は、VGEFを使ってみずからが生きるための栄養補給用の血管を確保していくのです。低体温の状態は、がん細胞がMMPとVGEFという2つの低酸素応答遺伝子の助けを借りて増殖しやすい環境なのです。

 また、低体温の状態では、がんを排除するはずの免疫機能も弱まってしまいます。例えば、免疫に深くかかわるリンパ球は、リンパ節や脾臓で待機し、危機を察知すると活動しはじめ、がん細胞やウイルスなどの外敵を排除します。ところが、低体温の状態で血流が悪化すると、リンパ球の働きが弱まってしまうのです。

 健康診断の結果を見ると、血圧や赤血球、白血球の数など、それぞれに基準値があります。精密機械のように基準値内の数値を保つには、深部体温が37度Cで、体の組織が㏗(ペーハー)が7.4以上であることが非常に重要です。というのも、この深部体温と㏗の数値の環境下では、体内のあらゆる生命活動にかかわる酵素が最も活性化するからです。

 しかし、低体温の状態になると、代謝や排泄、免疫、抗酸化といった機能が低下してしまいます。その結果、血圧や赤血球、白血球の数などの数値も異常値を示すようになり、がんをはじめとする病気のリスクが高まるのです。病気のリスクを回避するためには、低体温の状態を改善することが重要なのです。

基礎体温を上げるには10分間以上の温浴や有酸素運動がおすすめで食生活の改善も有効


 では、どうすれば、基礎体温を上げることができるのでしょうか。最も効果的な方法が、温浴と運動です。最近では、冬場の寒い時期でもシャワーだけで入浴をすませる人もいるようですが、冷えや低体温を招く一因になります。冷えや低体温を解消するためには、お風呂に入ってしっかりと体を温めることが肝心です。

 具体的には、心臓に負担をかけない40度Cを超えない程度の湯船に10分間以上温浴するのがおすすめです。鎖骨が出ないよう、しっかりと体を湯船に漬けるようにしてください。注意点としては、お湯の質にも気をつけることです。

 さら湯では、ORP(酸化還元電位)が高いことがあります。ORPとは、酸化しているかどうかを示す数値で、一般的に水道水は残留塩素の影響で酸化しているため、肌への刺激が強くなります。肌への刺激が少なく、保温効果の高い湯質に変える入浴剤が市販されていますので、利用するといいでしょう。

 また、お風呂から上がるときにも注意が必要です。特に冬場は、浴室で立ちくらみなどを起こして転倒する高齢者が少なくありません。お風呂から出るときは、手を冷やしてから立ち上がるようにしてください。手を冷やすだけでも、立ちくらみの危険性を減らすことができます。さらに、入浴後は体を冷やさないよう、しっかり保温することも心がけましょう。

 運動は有酸素運動がおすすめです。ラジオ体操やウォーキングなど、適度な運動を習慣化するといいでしょう。食事については、肉類や魚類、卵、砂糖、穀類などの酸性の食品は控え、体内の㏗値を高める野菜や果物、海藻、キノコ、大豆などのアルカリ性の食品をとることが理想的です。

 人間が正常な生命活動を維持するうえで、深部体温を37度C前後に保つことが大切です。しかし、一般家庭では直腸温の測定はできませんので、腋窩温や舌下温、非接触性の体温計で定期的に鼓膜温を測り、自分の基礎体温を把握しておくようにしましょう。

 冷えや低体温は、手足の末端から始まり、最後には体の奥の深部体温が冷えるようになります。朝・昼・晩など、生活の場面を変えて定期的に体温を測定することがおすすめです。特に、入浴の前後は体温の変化がわかりやすく、血流が改善しているかどうかの目安になります。

 また、体の熱を運ぶのは血流で、血流の調整をつかさどるのが自律神経です。自律神経には、活動するときに優位に働く交感神経と、休息するときに優位に働く副交感神経があります。現代人は、生活習慣やストレスなどで交感神経と副交感神経の切り替えがうまくいっていない傾向があります。

 温浴や運動は、自律神経のバランスを保つのに効果的です。冷えや低体温を改善し、がんをはじめとする病気に負けない体作りを心がけてください。