噛み合わせの乱れでも耳鳴り・難聴・めまいが起こる!歯みがきや食事の工夫で不快症状が改善

長坂歯科院長
長坂 斉

噛みグセによって耳への過剰な刺激や姿勢の乱れが続くと耳鳴り・めまいを発症

[ながさか・ひとし]

愛知学院大学歯学部卒業。日本全身咬合学会指導医・認定医、国際歯科学士会会員。「噛み合わせと全身の健康」をテーマに活動している。著書に『難聴・耳鳴り・めまいは「噛みグセ」を正せばよくなる』(青春出版社)などがある。

 耳鳴りやめまい、難聴といった症状は、耳鼻咽喉科で治療を受けても、なかなか改善しないケースが多く見られます。検査を受けても異常が見られず、原因不明と診断されて困り果てている人も少なくないのではないでしょうか。

 原因不明といわれていた耳の不調に「噛みグセ」が関係していることがわかってきました。噛みグセとは、特定の歯ばかりを多く使って噛んでしまうクセのことです。噛みグセには、前歯噛みと奥歯噛み、左右どちらかの歯に偏った片噛みがあります。噛みグセを治すことで、耳鳴りやめまい、難聴といった耳の不調がよくなることがあるのです。

 噛むときに動く下あごの関節(顎関節)は、耳が存在する側頭骨とつながっています。下あごを動かすことで発生する物理的な刺激は、絶えず耳に伝わっているのです。

 例えば、「左の奥歯で多く噛む」クセのある人は、左の側頭骨が顎関節によって突き上げられやすくなります。噛んでいるだけでも刺激が伝わっている耳は、噛みグセがあることでさらに強い刺激を受けることになるのです。

 耳は極めて繊細な器官のため、強すぎる刺激を受けつづけると機能が低下してしまいます。噛みグセによって耳の機能が低下すると、左右の聴力差や平衡感覚の乱れが生じるようになり、耳鳴りやめまいが発症するのです。

 噛みグセは、物理的な刺激を与えるだけでなく、耳周辺の血流にも悪影響を与えてしまいます。噛みグセがあると、クセがある側の歯を動かす咀嚼筋の血流が過剰に高まり、咀嚼筋に隣接する耳周辺の血流も高まります。血流がよくなるのはいいことのように思えますが、過剰に血流が高まると、内耳や鼓膜を圧迫するため機能の低下を招いてしまうのです。歯科は虫歯や歯周病を治療するだけではありません。噛みグセを矯正することで、耳鳴りやめまい、難聴といった症状の改善も期待できるのです。

 噛み合わせが悪くなると、耳以外にも影響を及ぼすことがわかっています。噛みグセによって起こる体の不調を「咬合関連症」といいます。発症が懸念される症状の範囲は耳鳴りやめまい、難聴以外にも頭痛、肩こり、四十肩、腰痛、ひざ痛、手足のしびれなど多岐にわたります。

 では、なぜ噛み合わせが全身の不調を引き起こすのでしょうか。長年、偏った噛み方を続けていると、体にゆがみが生じてきます。噛みグセがあるほうの歯がすり減って歯の高さが低くなると、その差に応じて頭の位置が前後または左右に傾きます。頭が傾くと、傾いた頭を支えるために首や肩の筋肉が緊張した状態になります。その結果、頭痛や肩こりなどの症状が現れるようになるのです。

 さらに、頭が傾いた状態が続くと、ゆがみは全身に広がっていきます。首の骨や背骨がねじ曲がり、くずれた上体のバランスを補うために、骨盤の位置もずれていきます。姿勢がくずれた結果、腰やひざにも負担がかかり、腰痛やひざ痛などが引き起こされるのです。

 噛みグセは、日々の習慣を変えることで正すことができます。
私たちは食事をするさいに奥歯噛みをしがちです。奥歯噛みは耳にも歯にも大きな負担になります。

 そこで大切なのは「前歯を使って噛む」ことです。噛む行為を前歯に任せることで、顎関節や耳への物理的刺激を半分ほどに、人によっては3分の1まで減らすことができます。

噛みグセを防ぐには食事のさいに前歯を使うことが重要でフルーツが食べやすい

咬合関連症チェックリスト

 「前歯噛み」の習慣を身につけるには、前歯を使って噛み切ることが必要な食べ物を選ぶことです。おすすめはバナナやリンゴ、ナシ、モモ、イチゴなどの果物ですが、前歯で噛まなければならない食べ物を自由に取り入れてみましょう。

 噛みグセを防ぐには、正しい歯みがきのしかたを身につけることも大事です。

 歯周病や虫歯にかかると噛むことをさけてしまうため、噛みグセを作る大きな原因の1つになります。噛みグセを作らないためにも、歯周病や虫歯対策は欠かせません。

 歯みがきの大切さがわかっていても、間違った歯のみがき方をしている人は少なくありません。特に多いのが「みがきすぎ」です。歯みがきに時間をかけすぎたり、力を入れて強くみがきすぎたりしている人が増えています。

 長い時間をかけて歯をみがくと、歯ぐきを傷つけてしまいます。歯ぐきが傷めば炎症が起き、歯周病の進行を促します。みがきすぎは歯ぐきばかりではなく、歯そのものも傷めます。歯の表面を覆っているエナメル質はとても硬い物質ですが、みがきすぎによって磨耗している「磨耗症」の人が増えています。磨耗症になると冷たいものや熱いものが歯にしみやすくなり、虫歯菌におかされやすくなります。歯をみがくときはどんなに時間をかけても、すべての歯で3分間が限度です。

 また、力を入れて歯ブラシを左右に動かすみがき方もよくありません。歯みがきは、歯ブラシを縦に動かして、歯周ポケット(歯と歯ぐきの境めのみぞ)の汚れをかき出すつもりで行いましょう。歯ブラシは力を入れてこすらなくても歯と歯ぐきに当てるだけで十分に汚れを落とすことができます。

 噛みグセは毎日のケアの積み重ねによって防ぐことができます。私の患者さんの中には、噛みグセを改善することで原因不明といわれた耳の不調が治まった方も少なくありません。