激しい回転性のめまい・耳鳴りが続くメニエール病には抗ウイルス薬が有効と判明

額田記念病院めまい外来
中山 杜人

グルグル回るような回転性のめまいを伴うメニエール病は難聴や耳鳴りも併発

[なかやま・もりと]

1971年、群馬大学医学部卒業後、耳鼻咽喉科に入局。同大学院修了。1977年、武蔵野赤十字病院耳鼻咽喉科副部長。1982年、横須賀共済病院で呼吸器内科を担当(後年、内科部長)。耳鼻咽喉科に入局以来、めまいの診療にたずさわり、めまいに悩む患者さんの役に立ちたいとの思いから、1987年、同病院でめまい外来を内科に開設。2003年、同病院を退職後、非常勤としてめまい外来を担当し、2005年まで勤務。現在は額田記念病院で呼吸器内科とめまい外来を診療。

 メニエール病の具体的な症状には、グルグル回るような回転性のめまいをはじめ、耳鳴り、難聴、耳閉塞感(耳がつまった状態)、吐きけなどがあります。このような不快症状を伴うめまいは、かつて、脳の異常によって起こると考えられてきましたが、1861年にフランスのプロスパー・メニエール医師が、「鼓膜の奥にある内耳の病気」と発表。以来、メニエール病として世界に知られるようになりました。

 さらに、大阪大学の山川強四郎教授(当時)が1938年に「内耳にある小器官内にリンパ液がたまってできた水腫(水ぶくれ)が、めまいや耳鳴り、難聴を引き起こす」と報告。以後、多くの研究者がメニエール病の調査・研究に取り組むことになりました。しかし、内耳に水腫ができる原因は解明されませんでした。

 その後、札幌東和病院内科外来の七戸満雄先生が、1990年代からメニエール病とヘルペスウイルスの関連性について立てた仮説を、国内の医学雑誌や国際ウイルス学会、著書を通じて発表され、臨床応用を経てその有効性を確認しています。

 メニエール病の研究がさらに進んだのは2009年のことです。米国・マサチューセッツ州立大学医学部耳鼻咽喉科の主任教授を歴任したリチャード・ガセク教授が、ほかの病気で亡くなった8人のメニエール病患者さんを解剖して調べた結果、一例で「内耳にある平衡感覚を担っている前庭神経節内に、ウイルス外殻(ウイルスの遺伝子を包んでいるたんぱく質)を見つけた」と報告したのです。

水ぼうそうや帯状疱疹にかかったことがある人は、ヘルペスウイルスが体内に潜伏している。体が健康な状態だとウイルスは暴れないが(上)、加齢やストレスなどで免疫力が低下すると、潜伏していたヘルペスウイルスが聴神経節を攻撃するようになる(下)

 前庭神経節にウイルスが潜在する可能性を指摘したガセク教授は、ヘルペスウイルスがメニエール病の原因になりうると推察し、35例を治療した結果、91%でめまいが改善。同教授は、2009年に続いて2014年にもメニエール病のヘルペスウイルス関与説に関する2本めの論文を発表。2本めの論文は主にメニエール病に伴う難聴に関する内容で、31人の症例を治療し、めまいに比べて難聴・耳鳴りに関しては有効率が落ちると報告しています。

 私は、メニエール病の症状改善を目的とした抗ウイルス薬の投与に関して、2009年10月からデータを取っています。現在まで積み重ねた症例が147例あります。

 私がメニエール病の患者さんたちに対して抗ウイルス薬を投与するきっかけになったのは、患者さんからの相談でした。前庭神経炎が疑われた患者さんでしたが、さまざまな治療を試みても改善しなかったため、ご本人が抗ウイルス薬を使った治療を希望されたのです。その結果、患者さんのメニエール病は改善。以来、メニエール病をはじめ、さまざまな治療を施してもめまいが改善しない患者さんに対し、「もう1つの選択肢」として治療に取り入れることにしたのです。

抗ウイルス薬によるめまい治療の改善率は約9割で突発性難聴も改善し高齢者でも有効

 抗ウイルス薬の投与によって症状が改善した患者さんの例をご紹介しましょう。

● メニエール病に伴う回転性のめまいが翌日に解消したAさん(41歳・女性)

 メニエール病による回転性のめまいに週に3日も悩まされていたというAさん。ほかの耳鼻科で抗めまい薬、ステロイドパルス(ステロイド薬を大量に点滴する治療法)による治療を受けたものの、いっこうに改善が見られなかったそうです。私のもとでも、さまざまな治療薬を投与しましたが、めまいは週1回に減っただけでした。そこでAさんに、抗ウイルス薬を投与したところ、翌日からめまいが完全に消失。難聴はやや残りましたが、めまいがなくなったことにAさんはとても喜ばれていました。

● 3種類の抗ウイルス薬で耳鳴り・めまいが消失したBさん(50歳・男性)

 Bさんは都内の大学病院でメニエール病と診断されました。標準的な治療薬の投与によって症状はいったんは改善したものの、再び悪化。回転性のめまいや耳閉塞感、低音部の難聴も伴うようになってしまったそうです。

 そこで私はBさんに、抗ウイルス薬による治療を開始。1種類めの抗ウイルス薬を投与すると耳鳴りが改善し、2種類めの抗ウイルス薬では回転性めまいが消失。ふわふわとしためまいが残っていたBさんに3種類めの抗ウイルス薬を投与したところ、2週間でめまい感が消失。種類を変えて投与した抗ウイルス薬によって、耳鳴り・めまいの症状が改善されたのです。

 抗ウイルス薬を使って治療を行い、結果が明らかな133人のうち、117人のめまいが改善。有効率は88%にも上りました。改善した患者さんの中には82歳の男性や84歳の女性もいることから、高齢者にも有効な治療法といえます。

 メニエール病以外では、突発性難聴に悩んでいた67歳の男性に抗ウイルス薬を投与したところ、劇的によくなったという例も確認しています。ただ、突発性難聴では劇的に効く人もいますが、タイミングが必要ですし、あまりにも時間がたってしまった場合は効果が薄いです。ときにはヘルペスウイルス薬が無効のこともありますが、標準治療とは異なる選択肢としての意味はあると思います。

 ただし、抗ウイルス薬を使った治療は保険適応ではありませんので、その点は留意してください。